それだけで幸福 ページ4
※相棒編からn年後
警視庁の廊下に、普段は見ない同期がいた。
「あれ…Aちゃん？」
「！…研二」
「珍しいねぇ、この階にいるなんて」
「この前の工場爆破事件。サイバー攻撃が絡んでたから、その解析資料を渡しに」
ファイリングされた資料を見せつけながら、Aは軽く首を傾ける。
「ちょうど良かった……あ」
萩原へ渡そうとしたが、その行動は手前でピタリと止まり、思い出したかのように彼女は空いているほうの手を伸ばした。
「え…Aちゃ…ん！？」
「ん」
資料を受け取ろうとした萩原の手に絡んだのは、紙でもファイルでもないAの素手。
するりと指が絡まれ、あっという間に手と手が合わさった。
中途半端に開かれた萩原の手を、Aの手がぎゅうと掴む。
「…硬いね」
「！？」
「でも、あったかい」
俗に言う恋人繋ぎというやつで、突然の彼女の行動に萩原は言葉を失った。
女性の扱いには長けていると自負していたが、恋愛観がズレているAのこの手には流石についていけない。
酒でも入っているのか、いや、真面目な彼女が職務中にそんな状態になるなど考えられないと1人でぐるぐる思考を巡らす。
「ど、どうしたの」
「いや…ちゃんと生きてるなって思って」
「！」
ホッとしているかのようなAの表情に、優れた洞察力が反応した。
先程の思い出したかのような素振り。
今日の日付に気づけば、自ずと答えは見えた。
「…あの時のこと、まだ根に持ってる？」
「勿論」
数年前の今日。
爆弾事件で命を落とすかもしれなかった萩原を、Aの一声が救った日だ。
垣間見えた彼女の怒りの声に奮い立たされ、結果死を回避して今に至る。
開かれていた萩原の手が、Aの手を包み込むように覆った。
「ちゃんと、生きてる」
「うん」
困ったように笑う萩原から伝わるのは、生きている証の体温。
力が込められた手は、驚くほど温かかった。
「なんなら抱きしめてあげようか？」
「それは大丈夫」
安心するならばと、この場にはいない親友が聞いたら激昂しそうな発言をしてみたものの、返ってきたのは彼女らしい答え。
けれどそこには滅多に見れない、満足そうな笑顔が浮かんでいた。
「生きてるなら、それでいいよ」
×××××××××××
2022.11.07
たまに原作事実に泣きそうになって、その度に「死んでない。ちゃんと心の中で生きてる」って言い聞かせてます(重症)。ずっと好きだよ爆処。
【円盤発売記念】とある日の授業前→←10月31日_松田の場合
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作者名：七草 | 作成日時：2022年10月31日 21時
