【鈍色編後日談】木枯らしの中 ページ28
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茶色の葉が緩やかに空を舞っている。
立てた線香から細い煙が漂って、花が添えられた墓石の前で暫く手を合わせていた。
「遅くなってごめん」
閉じていた瞳を開き、石に刻まれた親友の苗字を見つめながらぽつりと口を開く。
退院してから1番に来たかった場所。
まるでおかえりというように、彼女の墓は2年前から何も変わってはいなかった。
「全部…終わったよ」
自分に取りついていた過去の因縁に、ようやく終止符が打たれた。
あの犯罪者は確保され、真の意味で、彼女の仇を取った。
親友は、この2年に何を思うだろう。
「いちいちそんなことしなくていい」とため息をつくか、「よくやった」と笑ってくれるか。
喜びと、哀愁と、少しの後悔。
色々な感情を混ぜ合わせて、Aは眉を下げる。
「終わらせたのは、私じゃないけど」
「何言ってんだ」
そこで捻くれなくてもいいだろうにと、後ろにいた伊達が声をかける。
息を潜め、日陰の世界で日々を送ったA。
安息なんて程遠い。
手首の爆弾と向き合い、生にしがみついて、声に出せない叫びを繰り返した。
絶望。
そんな言葉が似合う毎日。
けれど最後の最後で泥の中から伸ばした手は、大きな5人の手によって引き上げられた。
けして離されることのない絶対的な存在。
涙を呑み、孤独と狂気に悶えながら11月7日を乗り越えて、やっと取り戻すことができたのだ。
鈍色の空のその先。
長い間失っていた、かけがえのない大切なものを。
「それが…"仲間"だろ」
「……うん」
この世界に生まれて、親友がくれた沢山のこと。
彼女と共に欠落してしまったそれを再び手に入れた今、もう囚われることなく、前を向いて歩いて行かねば。
それが生きている自分の、彼女にしてやれる1番の恩返し。
伊達の言葉にAは小さく頷き、そろそろ去ろうとゆっくり腰を上げた。
風が吹きつける寒さが頬を撫でる。
「他はいいのか？」
「……あ…」
全てが終わったこと、帰ってきたこと。
粗方伝えられたはずだが、以前とは違う事実をひとつ思い出し、墓石に向き直る。
把握していない伊達がこの場にいるが、いずれは知ることになるのだからいいだろう。
自分がこんな報告をするなんて、生きていたなら彼女はどんな顔をしただろうか。
「あのね。真江…私ね…」
静かな寺院墓地の中心。
木枯らしの寒さに似合わない、柔らかな笑みを浮かべた。
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(恋人が、できました)
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作者名：七草 | 作成日時：2022年10月31日 21時
