英雄の約束2 ページ27
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言葉を理解して、思考が停止する。
その2人に通じる女というと、己が知る存在は1人だけだ。
「ここまで言えばわかるでしょ」
答えは出ている。
ただそれが受け入れられないだけ。
確か彼女はとうの昔に亡くなっており、その死によってAは深く塞ぎ込むこととなった。
そこまでの過程を自分は深く知らない。
しかし死んだはずの存在が何故今、目の前にいて、自分を知っているのか。
非科学的なことは職業柄、信じないタイプだ。
そういった類は必ず科学的根拠があるのだろうと他人事に捉えるのがほとんどで、あまり関心もなかった。
しかしその考えが今、簡単に覆ろうとしている。
驚愕したまま動けない此方に、また女は楽しそうにケラケラと笑った。
「そんな驚かないでもいーよ。
別に今更Aの考えを邪魔するつもりはないし」
「は?」
「こっちの話。アンタに言いたいことがあって来ただけだから」
肩をすくめてから眼差しが真剣なものへと変わった。
笑みは消え、強く抱く思いを伝えるように口を開く。
「Aのこと、頼んだよ」
先程のおちゃらけた雰囲気から一転し、拳を此方へと突き出した。
「誰よりも繊細なくせに、無茶して予測不可能なことばっかりするから、アンタみたいな奴がいないとまた勝手に独りになる」
「……」
「離さないで。あの子のこと」
今のこの状況について聞きたいことは山ほどあったが、向けられた拳と言葉を無視するわけにはいかない。
何を言われようが、Aが望もうが望まないが、もう独りにさせるつもりなどないし、自分が手放すことはない。
そんな当たり前のことをわざわざ言い来たのか。
随分とご苦労なことである。
「言われるまでもねーよ」
不敵に笑い、突き合わせた己の拳。
それを見た女は満足そうに目を細め、今度は含みなく綺麗に笑った。
*
「……」
目を開ければ見慣れた天井。
むくりと起き上がって無意識に視線を下に落とした。
(……気のせいか?)
睡眠が深かったのか浅かったのかはわからないが、とても大事な夢を見ていたような気がする。
けれどその内容が思い出せず、モヤモヤしたままとりあえずスマホの時計を表示させた。
「……ってとっくに時間過ぎてるじゃねーか!」
呑気に夢どうのこうの考えている時間などなく。
遅刻の恐怖に支配され、大きな音を立てながら急いで脱衣所へと向かった。
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(命あるかぎり、想いは受け継がれる)
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作者名:七草 | 作成日時:2022年10月31日 21時