【鈍色編If小話】英雄の約束 ページ26
※あったかもしれない話_side松田
気づいたらそこに立っていた。
年季が入っている机と椅子。
古びた教卓と黒板。
夕暮れのオレンジ色が作り出す幻想的な空間は、どう見ても学校の教室だ。
しかしそれを自分が身近に感じていたのは10年くらい前のことで、今はこの場所が"懐かしい"と感じる歳である。
何故こんなところにいるのか。
自分の状況を理解しようとしても何も思い出せない。
そしてまた気がつけば、教卓の前に見たことのない女が立っていた。
「………誰だお前」
茶色のくせ毛に、こちらを見つめる三白眼。
紺のセーラー服姿で自分よりもずっと幼く見える。
表情からして自分とは違い、どうやら状況を把握していそうだ。
けれど問いかけても答えてくれることはなく、品定めのような眼差しに不快感が込み上げた時、出会った記憶がない目の前の女は唐突にため息をついた。
「…やっぱ無理だわ」
「は?」
思ったよりも高い声。
質問の回答になっていない言葉に眉を顰めたが、そんな自分を無視し、女は顎に手をやってまたジロジロ自分を見る。
「なんかこう…もうちょっと紳士的な奴が良かったんだけどなぁ…」
「……おいテメェ…」
「ほーら怒った。カルシウム足りてないんじゃないの」
「……」
女が何かに対して愚痴をこぼしているが、その矛先はおそらくでなくても自分。
ずっと小さい相手であることはわかっているものの、己の中の理性は我慢が効かない。
徐々にひくつく口元を嘲笑うように続けてくる。
「航みたいに素直さがあれば可愛いんだけどさ。
アンタそういうのは欠片も無さそうだし」
「なんでどこぞの誰かも知らねー奴にそんなこと言われなきゃならねーんだよ」
そう言い終わったところでハッとした。
ついつい挑発に乗ってしまったが、女は今、大事なことを口にしていなかったか。
苛つきが治らない頭で1度整理する。
聞こえた固有名詞は、自分にとって身近な人物の1人。
「…なんで班長のこと知ってんだ」
「……知ってるに決まってんじゃん」
自分は"班長"と口にしたのに、それが"伊達航"であることを把握しているのは何故なのか。
全てがわかっているように、教卓に肘から寄りかかってふんぞり返る姿が癪に触る。
さっさと答えろと眼差しで伝えれば女は怯む様子もなく口に弧を描いた。
歯を見せて笑う顔は悪戯っ子のそれ。
「航のことも……Aのことだって、アンタよりずーっと知ってるよ」
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作者名:七草 | 作成日時:2022年10月31日 21時