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【鈍色編小話】青に誘われて ページ25

※ File214の前_side松田



机には大量の書類が散らばっている。


「こんなことしてる暇ねーってのに…あんのクソジジイ…!」


11月7日から数日後、ペンを握る松田は心底嫌いな上司の顔を思い浮かべて頭を抱えた。

今回の命令無視だけでなく、今まで悪態をついてきた腹いせかのように振ってきた夥しい量の書類仕事。

安心毛布の如き工具も取り上げられ、もはや機動隊のフロアは監獄だ。
爆処の人間が連日デスクワークなど、いい笑い者である。


「いつになったら終わんだコレ…」


書いても書いても紙の山が減っていないような気がした。

このままでは現場に出て、好きな分解ができるのは何日後になるのか。

こんな雑用仕事はさっさと投げ出したい。

同期のうち、彼女に会いに行けてないのは自分だけだというのに。

そう思った時だった。


「はぁい、お預かりしまーす」
「萩!」


頭上から聞こえてきたのは親友の声。

首を大きく動かしてその顔を視界に入れる。
それと同時に手に持っていた書類をするりと取られた。


「今日こそ行くつもりだったんだろ?半分寄越せよ」
「けど萩、お前…」
「このままじゃ陣平ちゃん、拳出そうだからな」
「…うるせーよ」


隠す気のないニヤけ顔。
本当に気にしているのは上司よりも彼女のことだろう。

わかりきった関係に今更突っかかるのも時間の無駄で、顔を顰めてから少し多めに親友へと書類を投げた。















「…っていねぇじゃねーか!」


やっと来れた病院の一室。

深呼吸をひとつして扉を開けたというのに、白いベットの上に彼女はいなかった。

少しだけ開けられた窓から風が入り、弱々しくカーテンを揺らしている。
布団は綺麗にたたまれているが、数冊の本や果物が入った籠は置かれたまま。

もしや散歩にでも出かけたのか。
まだ歩いていい状態ではないと萩原は言っていなかったか。

人気のない空間で1人、ため息をつく。


「…ったく…」


相も変わらず自分を振り回すのが好きらしい。
2年間では飽き足らず、本当にいい度胸である。

しかしどうしようもない思いを抱きつつも、自分の口元はいつの間にか微笑んでいて。


「………行くか」


ここにいないのなら、思い当たる場所はひとつだけ。
ズボンのポケットに手を入れて、その中に銀のチェーンがあることを確認してから病室を出る。

穏やかな笑みはそのままに、屋上へと続く階段を目指して廊下を歩き始めた。







.
(今日はいつもより、空が青い)

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作者名:七草 | 作成日時:2022年10月31日 21時

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