本当の暗号2 ページ24
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公安警察として鍛えてきた洞察力は伊達ではない。
同期の1人が持っていた才能に比べれば、まだまだかもしれないが。
「[死にゆく者より敬礼を]。
気丈に振る舞いながらも、死の淵に立たされている恐怖が伝わってきた」
あの暗号で唯一、Aが思いを込めた一文。
状況を考えて、「死にたくない」と素直に言えるわけもなく、考えて、捻って、なんとか作り出した本音があれだったのだろう。
「けれど君は、これ以上僕達を巻き込みたくない気持ちもあった。
暗号文に自分の手首爆弾のことが何も書かれていなかったのはそのためだ」
警察学校時代と同じ。
甘えを知らない故、本当の願いを口にするのは得意ではない。
しかし芽生えていたものを飲み込んで消し去ることもできなかった。
「希望を捨てきれなかった。
だからあとから最後にあの文を付け足した…違うか?」
「人々を守ってほしい」と「自分も生きていたい」。
矛盾した2つの願いを織り交ぜて、暗号は刑事部へ、そして降谷へと送られた。
「あれが君なりの…SOSだったんだろ?」
「……」
この答えが誤っているのか否か。
それは先程から無言のままの彼女の態度で既に出ており、答え合わせは不要だろう。
こういう場合、確信を持って話していることを、Aは警察学校を通じて知っているはず。
だから次は、観念して眉を下げて笑うのだ。
「……零には、敵わないや」
物事の本質を見抜く能力。
その才能は公安として動く毎日で更に磨きがかかり、今回の件では大いに貢献した。
広場で氷室を連行した後、「わかっている」と言っていたあれは、本当に"わかって"くれていたのだ。
「しばらくは別件で忙しいが、氷室には僕自身で話を聞くつもりだ」
「…!…それは…っ」
奴がどれだけ危険な人間であることか、知らないわけではないだろう。
降谷の身を案じるAは弾けるように顔を上げ、すぐに言葉を詰まらせた。
自分は氷室の恐怖をよく知っているが、目の前の彼がどういう人間であるのかもよく知っている。
全てにおいて完璧な、そして同期としても誇れる我らが主席様なら、奴の扱いなど分かりきっているはずだ。
「……気をつけてね」
だから一言だけ。
せめて友人を心配する言葉くらいは送らせてほしい。
「あとは、任せてくれ」
Aの微笑みに、降谷は強く頷いた。
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(思っていたよりも、彼は私のことを知っていた)
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作者名:七草 | 作成日時:2022年10月31日 21時