【鈍色編小話】本当の暗号 ページ23
※ File212の後
「何故バークレーの言葉だったんだ？」
情報整理のためにAのもとを訪れた降谷は話の間でその質問を投げかけた。
黄昏の病室。
夕日が髪を輝かせ、一層美しい金色が見える。
彼の視線の先にいるAはというと突然振ってきた質問の内容を理解するのに少しだけ時間を要して、自らが送った暗号のことを思い出した。
「…失踪してから初めて氷室に接触した時に、罠に嵌ってね…。
その時に言われたの。もう私は"巣の一部"だって」
奴と再会し、不意をつかれて手首に爆弾をはめられた際に送られた言葉。
"先のない扉"の、扉の先にある巣。
"一部"ということは、もう生きて戻ることはない。
そう解釈して、本気で死を覚悟した。
その覚悟の中に抗いを含めて。
「…なんとしても無駄死だけはしたくなかった。
散々振り回されて、罠に嵌まったまま死ぬのは嫌だって。
だから…その決意のためだったのかも」
格好悪い抵抗でも、やらないよりはマシだろう。
もちろん生きられるならその道を迷いなく選んだが、自分1人でできることは限られていた。
ならせめて、意味のある死にしたい。
そう願った結果のあの言葉。
あるいは氷室に対する負け惜しみみたいなものだったのかもしれない。
「…あとは期待だったのかな。
私が氷室に殺されても、零たちならなんとかしてくれるって。
…人任せなんて、最低だけど」
「……」
「変なこと書いてごめんね」
病室ベットの上でAは少しだけ頭を下げる。
簡潔にまとめた犯行予告の暗号文最後に付け足したエージェントバークレーの言葉。
その真意はそういうことだったのかと受け入れはしたが、降谷の中にはどうも引っかかるものがある。
自分が初めてあの暗号文を見た時に感じた苦しさは、今彼女が語ったものとはまた別のもの。
子どもに語りかけるように微笑んでから、己の考えを口にした。
「…僕には、"生きたい"って読めたよ」
「……」
ゆっくりと顔を上げ、青色の瞳に映ったAの顔。
灰色が僅かに見開かれ、その瞳が潤って光った一瞬を降谷は見逃さなかった。
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作者名：七草 | 作成日時：2022年10月31日 21時
