【鈍色編小話】11月7日_14:30 ページ22
※ File209の後
閑散とした杯戸ショッピングモール。
巨大観覧車の周りにはまだ警察官たちが群がっており、それを無視して奥の林の方へ訪れた萩原は、こちらに歩いてくる親友の姿を見つけた。
「松田！」
無事である姿に胸を撫で下ろす。
5人それぞれが脅威を討つための役目を終え、やるべきことを成し遂げた。
その証拠に、松田の腕には目を閉じた彼女の姿。
「Aちゃんは…」
「寝てるだけだ。気ィ抜けたんだろーぜ」
大分長くなった黒髪に時の流れを改めて感じ、目の下の涙の跡に萩原は眉を下げた。
苦しさ辛さはまだあるかもしれないが、今はただ安息に身を浸してほしい。
生きて帰ってきた事実があるのなら、それ以上は望まない。
「零は氷室を確保してすぐ消えた。
目立って捜一の奴らに顔見られるわけにもいかねーしな」
「なるほどね…諸伏ちゃんは米花中央病院に残ったぜ。刑事部との取引があるってね」
「班長はどうした」
「ここにいるぞ」
茂みから現れた伊達に2人は目を向ける。
満足げな顔がそこにあり、こちらへ来て寝ているAを見つめるなり、穏やかに頬を綻ばせた。
「ありがとよ。松田も、萩原も」
「当然のことをしたまでだぜ…班長」
「だから俺はもう班長じゃねーよ」
「班長はいつまで経っても班長だろ」
ここにはいない2人を合わせて5人。
できないことはないと自負する伊達班でやるべきこと全てをやってのけた。
いつまでも色褪せない5人の思い出がまたひとつ増えて、かけがえの無いない大切な存在を取り戻した。
結果上々。
やりきった顔の萩原が伊達の肩に腕を回す。
「んじゃ…ま、これにて終了ってことで！」
「いいや、まだだ」
11月7日の仕事は終わったはずだと、爆処の2人が伊達の言葉に首を傾げる。
そんな彼らに伊達は珍しく弱々しい苦笑いを浮かべた。
爆弾解体、犯人確保、Aの保護。
ここまでできたのは各々が自由に行動できたから。
この件を真の意味で片付けるための、1番大事な仕事がまだ残っている。
「3人仲良く……事情聴取が残ってるぞ」
「「げっ…」」
1番大事であり、1番面倒な仕事。
困ったように笑う伊達の言葉に、2人は降谷たちを心底羨ましく思った。
.
(俺もとうとう陣平ちゃんと同じ始末書地獄かぁ…)
(適当に書いときゃいーんだよ。無駄に何枚も書かせやがって)
(捜一になんて言い訳すっか考えねぇと…)
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作者名：七草 | 作成日時：2022年10月31日 21時
