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何度でも2 ページ20

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『サイタイ行って、やりたいこと成し遂げたら聞いてほしい』


約束があったからとか、そういうことじゃない。

それも一部ではあったけれど、ただ笑って、嬉しそうな顔がそこにあれば良かった。

不器用ながらも前に進もうとして、成功と失敗を繰り返す。
警察学校の時の塞ぎ込んだ姿ではなく、未来に目を向けて、他人のために努力する姿が愛おしかった。

"救える人間になりたい"。
学校を卒業し、地域課を経て、サイタイの期待のルーキーまでに成長した彼女が眩しかった。

想いは留まることなく、こんなにも惚れているのだと、彼女のことを考える度に頭をかいて。

親友に揶揄われる度に、否定できない悔しさから舌を打った。

いなくなった後でも想いは同じで、女々しさに嫌気が募っても諦められるはずもなくて。


だから、けして絶望という名の地に膝をつけることはしなかった。


それなのに。



("生きたい"って思ったんじゃねーのか)



班長と話している時、確かに彼女の本音を聞いた。
あんなに荒ぶって紡いだ言葉が嘘な訳がない。

必死に願ったものを、そんな簡単に諦めるのか。

それでは本当にあの頃と変わらない。
4年前、何のためにその手を掴んだと思ってるのだ。

万策尽きたわけじゃないだろう。
利用し、我儘を言って、縋れる存在がまだいるじゃないか。

奥歯を噛み締め、悲しみと怒りが交差する。



(…お前がそうくるなら、全部ぶっ壊してやるよ)



再び塞ぎ込むなら、その扉を無理やりこじ開けて。

悲痛を嘆くなら、その声が枯れるまで耳を傾けて。

独りが怖いのなら、いつまでだって傍にいる。



その"諦め"を諦められるまで、何度でも。



"間違った時は止めてやる"と、4年前、高架下でした約束を違えるつもりはない。

親友と、同期と探し回った年月を無駄にするつもりもない。


絶対に、死なせやしない。


まだ整っていない呼吸で木陰から踏み出し、何度も空を切っていた己の手は、とうとうその腕を掴んだ。





「───ッ次そんなこと言いやがったら本気でぶん殴るぞ…」





「殺されてもいい」なんて、2度と聞きたくはない。

悲しくなるくらい細くなった腕に力を込めて、見開かれた灰色の瞳を見下ろした。







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(亡霊を見るような目で、見てんじゃねーよ)

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作者名:七草 | 作成日時:2022年10月31日 21時

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