【鈍色編小話】何度でも ページ19
※ File201-202_side松田
銀杏並木を全速力で駆け抜ける。
肺も脚も既に悲鳴を上げているが、うるさいと黙らせて必死で動かした。
そんなことを気にしている暇など一瞬たりともない。
残り6分程度だが、やれることはまだあるはずだ。
「……っ…」
けして焦るな。
インカムの向こう側にいる彼らに言ったことを自分に言い聞かせる。
2箇所の爆弾は止め、爆破犯は捕まり、ようやくここまできたのだ。
成し遂げた彼らの功績も、己が費やした2年間も、この時のために。
ああ、ほら、姿がはっきりと見えてきた。
鮮明になっていくにつれ、脚は少しずつ速さを緩める。
先日の爆弾による火災事件では届かなかった彼女の背中。
それが今、目の前に。
込み上げる思いは全身を熱くさせたが、僅かな理性で頭を冷やす。
待ち焦がれた彼女の前には、因縁の相手である危険な犯罪者。
正面から行っても無駄だと、銀杏の木の影に身を潜めた。
「彼らになら…殺されてもいいのかも」
聞きたくない言葉と、諦めたような声色に耳を疑う。
身体が硬直し、すぐに沸々と込み上げる感情から強く拳を握った。
(……ふざけんな)
2年前、警視庁内の廊下で失踪の話を聞かされ、何かが崩壊したような衝撃がした。
当たり前だと思っていた日常が、その日から酷く歪なものに。
あてもなく探し続け、街で長い黒髪を見かけては無意識に視線を送り、行方不明者の情報を扱う気難しい人間たちがいる部署に足繁く通った。
班長に酷い顔だと指摘されるくらいまで走り回っても、ただ時間だけが過ぎていくだけ。
もどかしさは肺の中に全部押し込んで、煙と共に外へと吐き出した。
よくできた親友がいなければ、自分はもっとボロボロになっていたかもしれない。
いない。
見つからない。
この手の中は空っぽのまま。
虚空に取り残されたような感覚が常に襲ってきて、雨の日は特に煙草の味が苦かった。
(なんのために…ここまで来たと思ってんだよ)
けれど、その支配に負けたと思ったことは一度もない。
どれだけの時間が経とうと、諦めることも、この想いが色褪せることもなかった。
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作者名:七草 | 作成日時:2022年10月31日 21時