桜の舞台裏2 ページ18
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佐藤がこうなるのも無理はない。
風見は思った。
自分だって同じ立場にあったなら、こんな横暴に振り回されて黙っているわけにはいかない。
特に今回は異例すぎる。
事件を収束させることは担当者としての最も大切な作業であり、余所者が介入すれば今までやってきたことへの誇りに傷がつく。
理解は示そう。
けれど此方もここで引き下がるわけにはいかないのだ。
彼らが引かなかった場合の最終手段だとあの上司には言われたが、やむ得ない。
「…先程目撃情報が入った。
この杯戸ショッピングモールに、"藤宮A"の姿があったと」
「なんだと!?」
「藤宮って…そんなまさか!」
彼女の功績は本庁内で有名な話だ。
今から2年前、配属から1ヶ月で姿を消してしまったが、その短期間で名を轟かせた優秀さは上層部さえも認めていた。
時が経った今でもサイタイと深く関わっていた人間は彼女の存在を忘れないでいる。
刑事部捜査一課もそのひとつだった。
「彼女に関与している疑いがある人間は我々公安の管轄だ。
君たちが捕らえた爆破犯との関係性は不明だが、無関係の可能性が0ではない以上任せるわけにはいかない」
「……」
説得に時間がかかるようであれば、ありのままを話せ。
氷室の確保は時間との勝負。
変に隠すと却って話がややこしくなる。
あの上司の指示通りに風見は説明した。
公安部の介入の理由が明確になれば、彼らの考えも少しは揺らぐはず。
その期待通り、唇を噛んでいた佐藤の顔から少しだけ怒りの色が引いた。
しかし握る拳はまだ震えたままで、動揺していた瞳は再度鋭く風見を捉える。
「……っそれでも!」
「待て、佐藤くん」
「警部!」
反論しようとした佐藤を遮り、とうとう上司の目暮が動いた。
彼の隣に立つ白鳥は黙って見守ったまま。
経験豊富な彼らからは理解の表情が見えた。
わかってくれているのだろう。
刑事部の使命があるように、公安部にも譲れないものがある。
それが今回、変に重なってしまっただけ。
人々を守りたい。国を守りたい。
どちらも優先されるべきものであり、どちらも捨ててはならないもの。
「勝算はあるんだろうな」
今必要なのが"協力"なのであれば、つまらない意地はここには要らない。
目暮の問いに、風見は表情を崩さずに頷く。
全ては成すべきもののために。
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(国家と国民の安全。
それよりも大事なものはないだろう)
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作者名:七草 | 作成日時:2022年10月31日 21時