【鈍色編小話】桜の舞台裏 ページ17
※ File196以降
「どういうことか、説明はあるんですよね?」
本当はこんな話をしている時間はない。
避難誘導の確認、現場検証、情報収集、やることは山積み。
けれどそれも目の前のいけ好かない彼らのせいで作業は止まったまま。
憧れの警視庁捜査一課に配属になって、けして熟練と呼べる域には達していないが、彼らの厄介さは既に知っている。
教育してくれた先輩も顔を合わせる度に嫌な顔をしており、今まさに自分がその状況だ。
なんせ彼らが自分達の前に現れると碌なことがない。
佐藤は心底不愉快だった。
「今話した通りだ。ここから先は我々公安が引き受ける」
「ここまできて、全てを渡して引き下がれと?」
「この件に関しては報告元はそちらで構わないと言ったはずだ」
「納得できないわ」
戯言は他所で言ってくれと腕を組んで睨みつける。
後ろの上司が沈黙を通している限りはどんな態度でも平気だろう。
これは我々の仕事であり、公安部がわざわざ出てくるものでもないはずだ。
けれど急に現れ、何事かと問えば、ずっと気にしていた第2の爆弾は既に発見され、現在解体作業が進んでいるという報告をされた。
更にはこの件の後始末は此方に任せてほしいというもの。
驚きよりも何故彼らがこの件の情報を持っているのか、そして刑事部から刈り取る話になるのかいう怒りが勝り、今に至る。
(…どいつもこいつも…なんなのよ…っ)
犯人を確保し、後は任せたと走り去って行った男。
事情を聞こうとしたけれど、いつの間にか指示を無視して消えた機動隊の男。
そして今度は刑事部とは最も仲の悪い公安部の連中ときた。
謎に不要な障害が多すぎる。
今日は厄日か何かか。
もし犯人確保の男と機動隊の男が公安の命で動いていたのなら、振り回された此方からの拳は何発か許されるだろうか。
「突然割り込んできたと思ったら変なタイミングで事件の横取り。
相変わらず卑怯なやり方ね」
「卑怯で結構。君たちにどうこう言う権利はない」
「ならせめて、納得のいく説明を求めます」
今回の件は4年前から刑事部で担当していたものだ。
それが何故今になって彼らに奪われねばならないのか。
その答えを知るまでまで梃子でも動かない佐藤は、目の前のいけ好かない男、警視庁公安部の風見裕也をもう1度睨んだ。
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作者名:七草 | 作成日時:2022年10月31日 21時