10月31日_伊達の場合 ページ2
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「ねぇA」
「
「まだ何も言ってない!」
放課後の教室。
悔しそうに顔を歪め、Aの向かい側に座った真江はぷくりと頰を膨らませた。
「なんでそんなノリが悪いのさ」
「日誌書くのに忙しいから」
「今日ぐらいサボればいいのに」
「相手が欲しいなら航がなってくれるって」
「俺を巻き込むんじゃねーよ…!」
勝手に名前を出された伊達は慌てて声を荒げる。
悪気ない顔で日誌の空白欄を埋め続けるAをチラリと見てから、呆れた目を真江に向けた。
お菓子を与えても悪戯されたのは去年のことだったか。
「どうせお前は悪戯目的だろ」
「とーぜん!Aの髪をいじりたい!」
「「は?」」
予想外の真江の言葉にAも手を止め、顔を上げる。
向けられた視線に真江はニヤリと笑い、頬杖をついてAの髪に触れた。
「体育の時はポニテだけど、それ以外は下ろしてるじゃん?
折角綺麗で長いんだからもっと遊べばいいのに」
「…真江にしてはまともな悪戯だな」
「どういう意味」
「別にいいけど。髪くらい」
「ほんと!?」
「ガムくっつけるとかはやめてね」
「それはない!」
上機嫌でAの背後にまわり、髪を器用に結っていく。
全くやってこない痛みに少し感心しながら、Aは日誌に再び手をつけたが、あまり進まないうちに真江が髪から手を離した。
「どーよっ!」
「似合うな」
「結ってる間の鼻歌が音痴だったこと以外はいいと思う」
「A、喧嘩する?」
「嘘だよ。新鮮な気分」
渡された鏡に、初めての髪型をした自分の姿が映る。
満足そうに笑った真江に、つられて2人も頰を緩ませた。
.
*
警視庁の一室。
会議を終えた伊達は、資料を整えていたAに声をかけた。
「三つ編みなんて珍しいな」
「そう?」
「一瞬別人かと思ったぞ。一体どういう…」
滅多に見ない姿に何があったのか問おうとした時、今日の日付を思い出してハッと言葉を止める。
一瞬、あの教室が浮かんでまさかと顔を上げれば、Aは懐かしそうに目を細めた。
「…今日は、
彼女の悪戯に付き合ってあげるのも、悪くないだろう。
.
(三つ編みはできんのに、なんで料理は駄目なんだろうな)
(それは私も知りたい)
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作者名:七草 | 作成日時:2022年10月31日 21時