幾夜寝覚めね

二十二 ページ23

「今日は一段と賑やかでありんすなぁ」

いつものように支度をして座敷に上がると、そこには碧棺様と二人の客人がいた。

「連れの入間銃兎と毒島メイソン理鶯」
「どうも」
「よろしく頼む」
「ようこそおいでくんなまし」

御二方とも品の良い貌であるばかりか、与力に長崎奉行所のお役人様であるようで、
知的さも感じられる。

「申し訳ありんせんが、この後あちきは夜見世が控えておりんして、
せっかくお越しいただいたのに、あまり長居はできぬゆえ、
まともなもてなしができんせん」
「謝らずとも大丈夫ですよ、理解していますから」

入間様はそう言うと、私に、探るような視線を向ける。

「どうかいたしんしたか？」
「あぁ、いえ。左馬刻にしては珍しい好みの方だな、と思いまして」
「確かにそうだな。左馬刻はいつもはもっと派手な女性を好むが、
こう清楚な感じの方は初めて見るな」
「…うるせーな」

うざったがるように碧棺様は、煙管をすってそっぽを向いてしまう。

「しかし噂に違わず貴女は、長崎丸山で見たどの遊女よりも、
愛らしく、美しい顔立ちをしている」
「毒島様、世辞はいけんせん」

私があしらうように返すと、毒島様は世辞ではないのだが、と
ムッとしたお顔をされる。この方はよほどの遊び人か、無自覚にそういうことを
おっしゃられる方か。

「ともかく、折角登楼したのですから、呑みましょう」

入間様のお声で、それぞれ杯の酒を飲む。お出ししたのは、
ようやく手に入った、最も値の張る日本酒。
身銭を切ったことはお三方には内緒だ。

「うめぇ。これ、そんじょそこらの酒じゃねえな」
「そうですね、味がまるで違う」
「吉原ではいつもこのような酒を出すのか？」
「あい、雛鶴屋ではいつも酒は上物でありんす」

碧棺様が一度、ちらりとこちらを見たけれど、曖昧に誤魔化す。

「美味しゅうござんした。それではあちきは夜見世にもどりんす」
「もう戻んのか？」
「あい、今宵はお武家様の御一行が吉原に来ておす。あちきらにとっては
絶好の稼ぎ時でありんすから」

「それでは」

入間様が懐を探るので、私はそれを止めるとくぎを刺すように言う。

「酒の代はいりんせん。その代わり、またきておくんなんしなぁ。
今度はゆっくりお話しとうござんす」
「ああ。近いうちにまた来るとしよう」

急いで張見世に戻ると、予想通り見世にはお武家様たちが宴会に上がっている。

酒を注いでお相手をして。そうしてまた吉原の夜は更けていくのだった。

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