第9首 ページ10
「あ”ー!!疲れましたあ…」
文京区立自由交流館。師匠といつも練習するこの部屋で今、私はかるたどころか起き上がることもできずにいた。
『どうしたの?ふふっ…』
「どうもこうもないですよ!というか、先生気持ち悪い」
『えっ』
やたらとニヤニヤしている師匠を一蹴し、かくかくしかじかで…と簡略化して話す。
『なるほどね、で、その先輩はどうだったの?』
「どうっていうか。別に、どこにでもいるような選手でしたよ」
そっか、とつまらなさそうに返事をした師匠はなにやらそわそわとしている。聞いてほしいことでもあるのだろうが、あえて聞かない。
『ねぇ…』
「なんですか」
『なんで聞いてくれないの⁈』
頬をぷくっと膨らませて拗ねる師匠。子供じゃないんだからさ。いい大人だろうに。
「いや、別に興味ないんで」
『興味ないとか言わないで!聞いて!』
「仕方がないですね、3分耐久レースです」
寝転がったまま師匠の話に耳を傾ける。
『明日さ、久しぶりに詩暢ちゃんとかるたするんだけど…』
「ク、クイーンがここに来るんですか⁈」
若宮詩暢の名前を聞いて、すぐに起き上がる。
『…僕が言いたかったのはそうじゃなくて!詩暢ちゃんに会うのにどんな服がいいかなって…』
「服なんてなんでもいいんじゃないですか?てか、先生の服なんてクイーンは見てないと思いますけど」
『…辛辣だよね』
師匠はいつも小さな声を、さらに小さくさせていじけてしまった。言いすぎたかな、と慰めようとした所で電話が鳴った。
『周防さーん、電話ですよ!』
『詩暢ちゃんから⁈』
さっきのいじけは何処へやら。スキップしながら電話を受けに行った師匠。
師匠が電話している間、暇だったからなんとなくゴロゴロしながら過ごす。
「うわぁ…」
電話から帰ってきた師匠は、背中に雲を背負っていた。
「えっと…どうしたんですか」
『うん、あのね…詩暢ちゃんに振られた挙句に、むさ苦しい男子の相手をしなきゃならなくなった』
「そうなんですか。それじゃ私は明日来ない方がいいですかね?」
『いやっ!Aちゃんはいて!!』
「それじゃ私は帰りますね」
『あれ、今日はとっていかないの?』
「もー疲れました。無理です。お先に」
鞄を持って、帰宅の途につく。交流館と自宅はわりと近い。
すでに暗い路地には、野良猫達がいつものように集会をしている。
凝った首をぐるぐると回しながら、玄関の扉を開けた。
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作者名:だいすけ x他1人 | 作成日時:2018年1月14日 23時