遠回り。 (ページ11)

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第10首ページ11

「おはよーございまーす」

交流館のおばちゃんに気怠げな挨拶をして、2階に上がる。

『おはよー、Aちゃん』

朝っぱらから和菓子の山に埋もれながら、師匠から、してもいない挨拶を返される。

『朝ごはん食べた？』
「お腹すいてないので」

いいから、と手渡された饅頭をリュックにしまってお茶を準備しに給湯室へ行く。
師匠が適温とする40度くらいのお湯でお茶を入れてだす。

『ありがと…』

羊羹片手に茶を啜って、ぷはぁ…と息を漏らす。

「今日って誰が来るんですか？」

私もお茶を飲みながら、師匠に聞いてみる。

『えっと…真島くんと綿谷新』
「綿谷ってあの、永世名人の孫の？」
『そ。だけど彼のかるたはあんまりテンション上がらないんだよね』

師匠はつまらなそうに言うと、2つめの羊羹に手を伸ばした。見ているこっちが胸焼けしそうなスピードで和菓子が次々と師匠の腹に収まっていく。

『…欲しいの？』
「いりません」

私が見ているのを勘違いしたのか、大福を差し出して来るのを断って話を続ける。

「あ、そうだ。師匠、これあげますよ」
『ん？何それ』

昨夜コンビニで目をつけた、中身の餡がスナック菓子味のどら焼きを師匠に手渡す。

『え…邪道』
「先生、和菓子ならなんでも好きなんですよね？」
『だからってこれは…というか、美味しいのこれ？』

机の向かい側から、どら焼きをグイグイとこちらに戻そうとする手を負けまい、と押し返す。

『はよっす…ってなんかほのぼのしてますね』
『げ…真島くん』

私達の静かな攻防を破ったのは、真島先輩だった。私も、おはようございますと頭を下げる。

『あ…おはよう』

真島先輩は、師匠の横に座った。まつげの長さに少しの敗北感を味わいながら、お茶を出す。

『ありがとう』
『あれ…綿谷新くんは？』
『あー、今コンビニでチョコ買ってます』
『ふ～ん』

たわいない会話を3人でなんとなくかわしながら、待っていると急に障子が開かれた。

『ひって遅くなって、申し訳ありません！』

『「……あ。」』

お互いに目があった瞬間、思わず声が出た。

独特な訛りの、黒髪メガネの青年。
この間ぶつかった人に間違いなかった。

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ひって→とても