さんじゅうろく ページ36
自転車のかごに鞄を入れて、それを押しながら帰り道を歩く。
もうすっかり暗くなって、街灯や家々の明かりが足元を照らしだしていた。
隣では、いつものように雨宮の歩く姿があって、いつもと違うのは、
今は友達としてではなく、恋人として隣に並んでくれていること。
ちらりとこちらに目線を送ってくる彼女に、そっと笑いかければ、顔を真っ赤にして目を逸らされてしまった。まだ慣れないみたいだ。かわいい。
「ちょくちょく言ってた好きな人って私だったの？」
「あぁ」
「そ、そっか…」
「雨宮なら途中で気づくんじゃないかと思ったが、こっちがどれだけ含ませた言い方しても全然気付かなくて焦った」
「分かるわけないじゃん。私そんなに頭よくないもん」
「何回も言っただろ。お前じゃなきゃ頼めないって」
雨宮以外に、『恋に落ちる実験』なんて頼んだって意味がないんだって。
現代文の成績は、模試でも、定期テストでも、いつも俺より上だというのに。
「雨宮は他人の好意には極端に鈍い」
「否定できない…」
「まぁ、お前らしいな」
ふっと、思わず口許を緩めて微笑むと、またもや目を逸らされる。
雨宮といると、感情を表に出すのが苦手だったはずなのに、こんなにも笑みが零れる。
いつも通り、雨宮の家に着くと、雨宮は門扉の前でくるりと振り返って、俺を見上げた。
それから、照れくさそうに頬を赤く染めてはにかむ。
「じゃあ、おやすみ。帰り気を付けてね」
「あぁ、またな」
ぐっと身を屈め、雨宮の頬に顔を近づけて、触れるだけの口づけを落とす。
「……へっ、」
「…じゃあ、おやすみ」
ぽかんと口を開けて放心状態の彼女に、にやりと笑いかけながら頭をポンポンと撫でる。
それから俺は自転車にまたがり、帰路を辿った。
帰り道、自転車を漕ぎながら吹き込んでくる夜風に、爽やかな秋の匂いを感じて、ふっと小さく微笑みを零した。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 65人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
もち - にやにやとどきどきとほっこりが止まりません！イッキ読みしました！！ありがとうございます！ (2021年5月31日 4時) (
レス) id: 7417fbe2bd (このIDを非表示/違反報告)
弥生(プロフ) - 天然水さん» ありがとうございます〜！めちゃくちゃ嬉しいです！！ (2021年4月7日 19時) (レス) id: b916418063 (このIDを非表示/違反報告)
天然水(プロフ) - とても素敵な作品で前作から読んでます＾＾ 素敵な作品有難う御座いますっ！ (2021年4月6日 0時) (レス) id: 5091cdfe04 (このIDを非表示/違反報告)
弥生(プロフ) - マリンさん» ありがとうございます！その言葉のおかげで頑張れます！！ (2021年4月4日 21時) (レス) id: b916418063 (このIDを非表示/違反報告)
マリン(プロフ) - 楽しみに待ってました！！弥生さんの作品全部読ませてもらいました。好みどストライクで、最近の生きがいです（笑）これからも無理ない程度に頑張ってください！ (2021年4月2日 23時) (レス) id: 999a9c72ec (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：弥生 | 作成日時：2021年4月2日 15時
