に ページ2
実験の進め方を一通り確認して、雨宮は読みかけの本にブックマークを挟んで、それを机に置いた。
「お前以外にこんなこと頼める女子いねェんだ」
「ま、いいよ。どうせ誰も来ないし」
図書室には、いつも、本当に誰も来ない。
司書もほとんど顔を出さない。
が、雨宮は頻繁に入り浸ってる。ほぼ毎日、放課後には来ているらしい。
他の図書委員に、自分の気持ちが知られるのが嫌で、俺はあまり来ない。
だから、廊下ですれ違う日以外は、彼女に会えるのは木曜日だけ。
雨宮は多分、俺が図書委員になったのはそれが理由だということを知らない。
どこまでも、他人の好意には鈍い奴だから、他の男に好かれてるのも、全く気が付いてない。
「36個って思ったより多いなぁ」
「レベルが三段階あるらしい。12問ごとに上がっていって、レベルが上がるほど、より踏み込んだ内容の質問になるって」
「ほえー」
気の抜けた返事をした彼女が、スマホに手を伸ばすのと同時に、俺は実験をスタートした。
「この世界の誰でもディナーに来てくれるとしたら、誰を誘うか」
「誰でも？ えー多分これ一人だけでしょ」
「まぁそうだろうな」
頬杖をついて考え込む。
俺は、コラさん一択だが、彼女は誰を連れて行くのだろうか。
幼い頃の思い出の人か、それとも有名人か。
ふと隣からの視線に気づいて顔を上げると、雨宮と目が合う。
見られていたのか、と少し恥ずかしい気分になっていると、彼女はスマホに目をやってしまった。
「俺からだったな。…俺は昔、ガキの頃世話になったコラさんっつぅ人だ」
懐かしい昔の思い出を想起して口許が緩む。
あの人は、今何をしているんだろう。
またドジを踏んで誰かの世話になっているのだろうか。
「へぇー、女の人？」
「いや、男だ」
ふうん、と鼻を鳴らすように返事をした彼女に、お前はどうなんだ、と尋ねる。
「えー、だれかなー。ダヴィンチとか？」
「…予想の斜め上をいったな」
大昔の、しかも外国人と食事して、会話できるのかこいつ。
英語全くできねェくせに。
「ちょうどこの前倫理でも世界史でも出てきたから、頭に残っててさ」
「俺はどっちも取ってねェな」
「理系だもんね」
一年の時から、彼女は読書が好きだった。きっと文系を選ぶだろうと思っていたし、案の定文理選択でクラスが離れてしまった。
まぁ、彼女の英語、数学嫌いのおかげで、勉強を教えてやれるから、これはこれで悪くない。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 65人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
もち - にやにやとどきどきとほっこりが止まりません！イッキ読みしました！！ありがとうございます！ (2021年5月31日 4時) (
レス) id: 7417fbe2bd (このIDを非表示/違反報告)
弥生(プロフ) - 天然水さん» ありがとうございます〜！めちゃくちゃ嬉しいです！！ (2021年4月7日 19時) (レス) id: b916418063 (このIDを非表示/違反報告)
天然水(プロフ) - とても素敵な作品で前作から読んでます＾＾ 素敵な作品有難う御座いますっ！ (2021年4月6日 0時) (レス) id: 5091cdfe04 (このIDを非表示/違反報告)
弥生(プロフ) - マリンさん» ありがとうございます！その言葉のおかげで頑張れます！！ (2021年4月4日 21時) (レス) id: b916418063 (このIDを非表示/違反報告)
マリン(プロフ) - 楽しみに待ってました！！弥生さんの作品全部読ませてもらいました。好みどストライクで、最近の生きがいです（笑）これからも無理ない程度に頑張ってください！ (2021年4月2日 23時) (レス) id: 999a9c72ec (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：弥生 | 作成日時：2021年4月2日 15時
