プリン三昧のフーファン短編集 (ページ6)

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貴方と生きる、それは何か　プリン×創作御侍 4 ページ6

4.
　寂しげに背中を向ける御侍へわざと足音を殺し近寄るも、こちらに気付く素振りは一向に見られない。
　一歩、距離を詰めた。
　犬が匂いを嗅ぎ分けるような、短く鼻を鳴らす音がした。直後、御侍の両肩がびくりと揺れる。
「後ろ」
　喉奥から這いずらせた、唸るような低い声が耳を通り過ぎてゆく。
「居るの、誰だ」
　何らかの調理器具の柄を握る右手が、小刻みに震えていた。背後からでは手元が見えず、何を握っているのかさえも、定かではない。
　食霊は興味本位から無言で立ち尽くし、青年の反応を間近で傍観する。
　こまめに深呼吸をする青年の息遣いに違和感を覚えた矢先。僅か二秒程度の時間が、通常よりも一層早く経過していた。
「プリン……？」
　戸惑う御侍の声で意識が鮮明に呼び覚まされた食霊は、何が起きたのか、即座に理解した。
　水滴が伝う鉄塊に映る自分の顔は驚く程に無で、目を丸くした目前の御侍は、酷く滑稽な驚愕っぷりで、食霊を凝視していた。
　太ぶととした血管を浮かび上がらせた青年の右手から、一つの金属が滑り落ちていく。
　肉切り包丁の先端が、深々と床に刺さった。
「あ、の……。ごめん、なさい」
「お気になさらず。私も、すぐに声を掛ける事が出来ず、申し訳ありませんでした」
　俯いて冷や汗を流し、か細い声で謝る御侍を気にも留めずに、食霊は肉切り包丁を右手で拾い上げる。
「御侍様」
「な、なんだ？」
　確かめたいことができた。
「食事は既に摂られましたか？」
「へ？……うん。食べた」
　所持した包丁の刃先を左手の人差し指と、中指の先に軽く押し付けた。指の腹から流れる鮮やかな血が、御侍の切れ長な赤い目に、鮮明に映り込んでいた。
　私には、貴方が欲しいものを知る義務がある。
　食霊の指先で垂れる血液に、青年はごくりと息を呑む。目を逸らしたくとも、逸らすことなど出来はしない。自分が何よりも欲するものを前にして、秘めていた情欲が、沸々と煮えたぎる。
「食後のデザートにでも、いかがでしょう」
　耳に染み込む食霊の自らを甘やかす声に、青年は易々と、心を預ける意思を定めた。
「飲む、だけ……」
　返答を聞き届け、寝室へ移動しようと歩き始めた食霊の後に続く。
　自分の、自分に甘い短所を意のままに操作する食霊のことを嫌い、契約を破棄する意志を、固める事ができたなら。
自分は本当の意味で独立し、自立できていたのだろうに。