プリン三昧のフーファン短編集 (ページ19)

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雨垂れの唄　プリン×オムライス 9 ページ19

9.
　だが、それはあくまで食霊が口先だけで発言したことだ。食霊はプリンを、本当の意味で馬鹿だとは思っていないのだから。
　ただ、言い返す為の言葉が足りなかったから、「バカ」と言っただけだ。そこに大した意図はない。
　「バカ」という言葉が第一に浮かんだのも、食霊が自分自身を馬鹿だと自覚しているからこそ、生まれてきたと推察できる図星の反論にすぎないのだ。
　だから、食霊は驚いていた。
　プリンが自分を、馬鹿だと潔く認めた事を。
「お前は少し、誤解しているのかもしれないな」
「誤解だと？」
「私は、バカには種類があると思っている。その複数の種類の中に、自分が含まれていると自負しているから、私は自分を、バカだと認めざるを得なかった」
　バカの種類。唐突に持ち出された不可解な話題に、食霊の頭は理解することも、果てには話についていける余地すらなかった。
「ふうぅむ……。お前がいったい、どんなバカの種類に含まれると言うんだ？」
「さあな。それはまた、次の機会に話すとしよう」
「まさか、適当にでっちあげた話で、場を凌ごうとしたわけじゃないだろうな？」
「そんなわけないだろう」
　歩を進めたプリンが、他の階へ移動する際に使用する階段へと通ずる通路に続く扉へ手を掛ける。振り返ったプリンの瞳は、食霊の全身を映し出していた。
　見れば見る程、ゼリッチ愛の伝わる容姿。
　自分で手作りしたものであるとわかる衣服はある意味ではとても痛々しく、それでいて、食霊の一途さを懸命に伝えてくれる。
「まだ、お前に教えなければならないことが山ほど残っている。そんな忙しいときに、お前と二人でバカの種類の話をしているなんて、それこそ馬鹿げていると言うものだろう？」
「ぐぬぬぬ……ッ！！誰も、上手いことを言えとは言っていなぁい！」
　屋上で放たれた怒声は、延々と青空に木霊した。
　食霊の発言など気にも留めず、プリンは素知らぬ顔で扉を開けると、黙々と階段を下っていった。
　本当に、こいつの態度は気に食わない。
　何かの拍子に、例えば、そう。堕神の襲撃を受けた時にでも、ぽっくり死んでしまえばいいものを……。
　ギリッと噛んだ唇の端は、仄かに鉄の味がした。