プリン三昧のフーファン短編集 (ページ15)

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雨垂れの唄　プリン×オムライス 5 ページ15

5.
　ガーデニング様式の知識がない食霊が見ても、庭の造りが卓逸されたものである事は明確だ。
「何を見て言っている？」
　自分と目を合わせているようで合わせていない食霊を見て、プリンは心底、呆れた様子で問いを放つ。数ヵ月と言えど、それなりの時間をこの庭と共にしていた彼にとって、この庭は日常の一部に過ぎない。普遍化した意識では、食霊の感動に共感を持てる筈がない。
　プリンと目を合わせて、食霊は答えた。
「この庭を見て言ったんだ」
「ああ、この庭か」
「そう、この庭だ」
「この庭を造ったのは私だ」
「……んんっ？」
　突然、プリンが放った一言に食霊は戸惑う。
　仏頂面のサングラスでしかなかったプリンに対しての印象が、黒から白へ、がらっと色を変化させたような気さえした。
「お前、園芸なんてできたのか？」
「前の御侍様が修道女だったからな。御侍様がお亡くなりになった後も修道院で暮らしていたら、他の修道女とも、それなりに親しくなった。その修道院にいた修道女達は日がな１日じゅう神を拝んでいるわけではなく、園芸などに手を出しながら規則正しく過ごしていたから。長きに渡る修道院生活の中で、その者達の暮らしを支える手伝いへ回っていた私も最低限の園芸知識を得た」
　返答を聞き、食霊は再度、庭を見渡す。
「これが最低限？」
　最大限の間違いだろうに。
「そうだな」
　どれだけ凄い事を為し遂げたのか自分で理解しきれていないプリンが真面目すぎる馬鹿のように思えてきた食霊は、プリンの顔をまじまじと見つめた直後、急に、勝ち誇ったかのようにプリンを堂々と鼻で笑った。
　食霊が自分を嘲笑ったと認識したプリンは親指、中指、薬指を内側に丸めた右手を食霊の額へ押し付ける。
「むむっ？」
　ばちっ、と額で弾かれた指が、食霊の額へ束の間の激痛を与えた。
「あっだぁっ？！」
　中庭に響き渡る食霊の叫声は非常に痛ましい。
　三本の指を弾き、所謂デコピンを食霊へくらわせた当のプリンは対照的な無表情で、食霊へ落ち着きのある声を投げ掛けた。
「案内を始める。着いてこい」