プリン三昧のフーファン短編集 (ページ14)

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雨垂れの唄　プリン×オムライス 4 ページ14

4.
　倉庫へ御侍を一人残し、食霊は半ば強引に、このレストランでは先に召喚されていた先輩に当たるプリンから、片手で耳を引っ張られながら庭へ出た。
　コルプス亭の庭は建物の中にある、所謂、中庭と呼ばれる部類の庭だった。病院やホテル等でよく見られる気分転換やたまに行われる祝い事で使われがちな四方形型の庭だ。
　天井が筒抜けで、雨が降りさえしたら庭の植物も雨滴を浴びるのは明らかだろう。
「痛い！痛いからやめろ！サングラス！」
「手を引いてやるべきだったか？」
　普段の彼を知る者は、プリンが敬語抜きで話すとは何事だと不穏な空気を感じ取るかもしれない。
　彼はゼリーに害をもたらすと判断した場合やゼリーに近付けてはならない人物をまとめたブラックリストへ名を記した人物には殆ど敬語を使わない食霊だ。
　それがなくとも、彼はそこまで口調を統一しているほうではない。
　尊敬するゼリーや御侍、他の人物の前であろうと、時と場合によっては敬語を抜いた口調になる。誰しもそうだろうが、大きく動揺したときや、ふと独り言を溢すとき。仕事と何ら関わりのない会話をする際に、彼の口調は特に分かりやすく素の状態へ戻る。
　もっとも、彼が誰よりも砕けた口調で口を聞く人物は言わずもがな彼の目前に居る、ゼリーを好んで止まないゼリッチ愛の塊とも評せる食霊だ。
「引かなくていい！誰がお前の手など握るか！」
　耳を摘まんでいた二本のしなやかな指がすんなりと離される。前を見て背を向けていたが、やがて何食わぬ顔で振り向き、プリンは食霊と顔を合わせようとした。
　俯いて赤くなった耳を恨めしそうにさする食霊がプリンの視線に気付き、不本意ながらも目を合わせようと顔を上げる。
　先程は痛みが邪魔をしてよく見ていなかったが、プリンの背後に広がる、倉庫とは別世界とも表現し得る庭の絶景に、食霊はまんまと目を奪われた。
「凄いな……」
　庭を取り囲むように白い蔓薔薇が凛と愛らしく四方で咲き誇っていた。多方向に存在する建物の内部から中庭へ移動する為の扉が開閉する際に植物が突っ掛からぬよう、花の数こそ多いが、植物の配置にはきちんと工夫が為されている。
　周辺にはローズマリー、タイム、セージ等の植物類に疎い者でも一度は名前を聞いたことがあると思わしき有名なハーブ類が小ぶりの花を湛えて植えられていた。