貴方が私を食べるまで プリン×創作御侍 1 ページ1
1.
本日もコルプス亭の店内はすっからかん。数えられる程度しか人がやって来ない閑古鳥の日々が続き、明日も今日も、こちらが食っていける程、大勢の客がこの店に訪れる事はないのだろうか。
数日前、やっと料理御侍として初めて自分の店を持ち始めた青年は、今日も一日退屈だった、といった具合に気だるげな溜め息を吐き、ベッドの上に倒れ込む。脱力した状態で、ごろん、と横になると、タイミングを見計らったかのように、部屋の扉をノックする音が室内に響く。
確認せずとも、青年には誰が来たのか予想が付いていた。このレストランには今のところ、従業員は青年と、たった一人の食霊しか居ない。
二人、しかも男しか居ないと理解した上でノックをする必要性はいったいどこにあるのかとどうでもよい事をほんの一瞬、考え込んだ青年は、ベッドに俯せで寝そべったまま、ノックに反応しようとすらしなかった。
一度、顔を上げて、窓から射し込む夕陽を茫然と、眠たそうにこくりこくりと不規則に頷きながら眺めるが、不意に、ぐうう、と腹の虫が大きな唸り声をあげたことで青年は完膚なきまでに力尽き、遂には、だらん、と勢いよく布団に頭を突っ込んだ。
再びどうにか顔を上げるも、青年は夕陽を凝視して口元からだらしなく涎を垂らすだけで、その場からは断固として動かない。
「腹、減った……」
水分を失った雑巾を絞り上げたかの如く声を捻り出したところで、意識を失いかけている青年の耳に扉を開ける音が届く。扉を開けた食霊はベッドの上で間抜けな格好をした自分の御侍を目にして、小さく嘆息を吐いた。
「どうしました？」
と問う声は呆れ混じりのものだったが、青年はそんな事は1ミリ足りとも気にせずに、再び声を捻り出す。
「腹減った……。なにか、食べたい」
「食べられるものなら、何でもいいのですか？」
「うん。何でも、食べたい……」
ナマケモノのように身動き一つ取りやしない自分の御侍の哀れな姿を傍らで見下ろした後、赤みを帯びた丸いサングラスを掛けた食霊はベッドの端に腰を掛け、布団に顔を突っ込んだ状態で静止した青年の黒髪をゆったりと撫でるように、手櫛で解き始めた。
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炬燵の番人(プロフ) - 2019年、1年間書き続けてきた作品の全てを一気にまとめている真っ只中です。 (2020年1月13日 21時) (
レス) id: 7b96dd935e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：炬燵の番人 | 作成日時：2020年1月13日 21時
