素直になれない理由 2 (ページ12)

今日:3 hit、昨日:0 hit、合計:24,476 hit

12 ページ12

.

「あれ、香織ちゃんは？」

「断ったわ！」

「え、あ、そうなん」

香織ちゃんを断って私を探しにきたのかな？
そうだったらいいな、と期待している自分が恥ずかしい。

「Aちょっと借りていい？」

望はクラスメイト達に声をかけると、どうぞどうぞと差し出される。私は物じゃないと言い張ったけど、誰も私の言葉を耳に入れてはくれなかった。

望に腕を引かれ、エレベーターに押し込まれる。

「ちょ、どこ行くん？」

「最上階」

フワッと体が浮く感覚がすると、エレベーターは動き出す。

「Aは俺と香織がくっついてほしいん？」

望はやっぱり怒っていた。

「私に気を使ってるんやったら悪いなって思って…」

「俺がいつそんなん言うた？」

2人きりのエレベーターで、望は私の顔も見ず、プイッとそっぽを向いていた。

こんなに大きいのに子供っぽいところは昔のままだな。

ポーンと音がなってドアが開く。最上階は展望台になっていて、生まれ育った町が広がっていた。

「わー！きれい！」

望を怒らせてしまったことを思わず忘れて、声に出して喜んでしまう私もまた、昔のままだと恥ずかしくなった。

西から差し込む夕日が、町をオレンジ色に染めていて、無意識に感極まっている自分に気がつく。
そんな私を見て望はフッと笑った気がした。

「こないだAにキスしたん、まさか忘れてないよな？」

「へ？」

その話はあれ以来触れてこなかったし、触れてはいけないような気がしていたから、声が上ずってしまう。

「Aは好きでもない奴とキスすんの？」

「え、いや、そんなことは…ない」

「じゃあ俺のこと好きってことやろ？」

動揺を隠せない私と、誘導尋問のように責め立てる望。夕日に照らされ、顔が熱く感じる。

「俺はAがいいと思ったからキスしたんやけど？」

オレンジの空の下、誰もいない展望台で望が私との距離を詰めた。

.