27 一つ上の先輩達 ページ28
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「あの、話って…」
「そんな身構えなくても大丈夫ですよ、ただ、大丈夫かなって」
安室さんは私に缶コーヒーを優しく微笑みながら差し出す。
私はきちんとお礼を言って、微糖のコーヒーを受け取った。
そのコーヒーがこの前渡したコーヒーと同じ種類だったのは偶然か、必然か。
「あんな怖い思いをした後ですから」
「…安室さんは優しいですね。心配してくださりありがとうございます」
遠慮なく缶コーヒーのプルタブをあけ、一口口に含んだ。
常温だけどちょうどいい温度の苦味を喉に流した私は、自然と口角が上がる。
「…僕達、あんな高い所まで登ったんですね」
「え?」
安室さんも缶コーヒーを開けて、口に流し込む。
彼の目線はここから見える、イルミネーションで華美に飾られている大きな観覧車。
すっかり日は沈んで、駐車場に建てられている電灯が車内を薄暗く照らしていた。
事件があっても高く高く登っていくゴンドラに、また、私は彼のことを思い出していた。
「登り、ましたね」
「……事件の後、なんて言ったのは僕ですけど、さっき言っていた観覧車の爆発って刑事さんが被害者の事件ですか?」
「っ! ご存知、だったんですね。
まあ当時はよくニュースになってたし、知っててもおかしくない、か。
…被害者の彼、高校の頃の一つ上の先輩なんです」
一個上の、仲の良い先輩。
言葉は乱暴だし、荒々しく私の頭を撫でる手は大きく、未だに覚えてる。
面倒みが良くて、優しかった、
「松田陣平さん、でしたっけ」
「っ!?名前も覚えてるんですか!?さすが探偵さんだ!」
安室さんの記憶力に、驚き瞠目する。
そんな私を安室さんは目を細め、悲しそうな笑みを向けた。
「犯人がまだ捕まってない未解決事件は、ある程度目を通してまして。その事件は三年前、七年前の事件とも繋がりがあるとかで少し興味があったんです。
…その、すみません、思い出したくない事だったら僕……」
「いえ、いえいいんです。…きっかけは何にしろ、思い出してくれる人がいるのは、いいことですから。
それにほら、私自身もたまに思い出してあげなくちゃ」
わたわたとしている安室さんをくすと笑い手のひらで包んだコーヒーを飲む。
どんな形であれ、彼らを思い出してくれるのは嬉しい。
彼らは確かに生きていた。
生きていた、から。
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礼 - すっごく面白いです!続き楽しみに待ってます! (2021年12月12日 8時) (レス) @page38 id: 1125244af9 (このIDを非表示/違反報告)
こたきんぐ(プロフ) - ぱるむさん» 流れは一通り書いているのですがちゃんとした文字に起こすのがすごく手間取っていまして…、ぼちぼち頑張っていきたいです!ありがとうございます! (2021年8月28日 12時) (レス) id: 7882bc78cd (このIDを非表示/違反報告)
こたきんぐ(プロフ) - アイスあるさん» ありがとうございます!!返信遅くなってごめんなさい、マイペースですがぼちぼちやっていきます! (2021年8月28日 12時) (レス) id: 7882bc78cd (このIDを非表示/違反報告)
ぱるむ - 復活待ってます!すごく面白かったです! (2021年2月15日 18時) (レス) id: 4fbbe91aff (このIDを非表示/違反報告)
アイスある - めっちゃ面白いです!更新頑張ってください! (2020年5月27日 18時) (レス) id: 38b2fa8d4e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:こたきんぐ | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/Kotakinnhu/
作成日時:2019年9月6日 17時