26話 ページ26
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ぐぬぬ…と肩を震わせた影山はいきなり身を乗り出して「話を逸らさないで下さい!!」と叫んできた。
若葉は耳を軽く抑えて、ハイハイと受け流しながら音駒の方へと足を向けた。
「ちょ、若葉さん!」
『もううんざりだったんだ。比べられるのも、あの人を追いかけるのも。だから白鳥沢には進学しなかった……これで、質問の答えになったかな?』
肩越しに視線だけ向ければ、彼はまだ何か言いたいような素振りだった。
けれど、拳をギュッと握りしめて「…これだけ聞かせてください」と鋭い視線をくれる。
「二年間、連絡が取れなかったのは何故ですか」
「ブッ、」
ピタリと若葉の足が止まると同時に音駒の誰かが吹き出した。
ちらりと音駒に視線を向けた若葉は、口を抑えて震える黒尾と背中を向けて震える夜久の姿を捉えた。
珍しくキョロキョロと目を泳がせた若葉は観念したように口を開く。
『…去年の春頃、制服と一緒に洗濯したんだ。ポケットに入れたままだって気づかなかったんだよ。お陰様でケータイは壊れてデータが全て飛んだ』
恥ずかしそうに頬をかく若葉。
普段の若葉からは考えられない姿に影山は目を丸くした。そして、そういえばと思い出す。
大会会場で会った時もフラフラと会場内をさまよっていたり…自販機に飲み物を買いに来たのに、影山と偶然会って話をしたら取り出し口に飲み物を置いて行っていたり…と抜けたところは多々見られた。
「相変わらずで安心しました」
『私は君が変わっていて安心したよ。君は言葉が足りないから誤解されやすい。ちゃんと言えばわかってくれるんだから、納得のいくまで話し合うんだよ……飛雄は私みたいになるな』
優しい笑みを浮かべてスッと影山の頭を撫で、次こそ音駒の方に戻って行く。
赤いジャージの集団。
そこに混ざる違和感のない、一番尊敬している人。
身長が高くて、強くて、賢くて…引き際を知っている彼女だからこそ、あの試合のあと部活を辞めたのだろう。
影山は、自分が悔しがるのは間違いだと思った、けど。
けど、若葉にバレーボールを続けてほしかった。
選手としてコートに立って活躍する彼女の姿を見たかった。
『あ、飛雄、言い忘れてた。君が白鳥沢行ってたら正セッターになれてなかったと思うよー』
こういう意地悪いことを言えるくらい元気になったのなら、あの場所から離れて良かったのかもしれない。
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早夜(プロフ) - LUNAさん» コメントありがとうございます!!楽しんでいただけて嬉しいです。今まさに公開致しました。パスワードなしでご覧いただけます。お待たせしてしまい申し訳ありません。ぜひ、続編も楽しんで読んでいただければ幸いです!! (2月26日 23時) (レス) id: f5ec9a9fb0 (このIDを非表示/違反報告)
LUNA - こんばんは!!初コメ失礼します!めちゃくちゃ楽しく読ませて頂きました!!続編も気になっているのですが数話公開されたらパスワードがなくても読むことが出来ますか?続編も気になるのでよろしくお願いします!! (2月26日 23時) (レス) id: b20802aba1 (このIDを非表示/違反報告)
早夜(プロフ) - アマアマハチミツさん» コメントありがとうございます!まだ1話しか書けておらず、数話まとめての公開にしようと思っていたのですが…1話でもいいよ〜と言っていただけるのであれば公開させていただきます。 (2月26日 22時) (レス) id: f5ec9a9fb0 (このIDを非表示/違反報告)
早夜(プロフ) - ミカサさん» 続編公開しますよ!それまでお待ちください! (2月26日 22時) (レス) id: f5ec9a9fb0 (このIDを非表示/違反報告)
早夜(プロフ) - いくら丸さん» コメントありがとうございます。楽しく読んでいただけて嬉しいです。続編は公開致しますので少々お待ちくださいませ。 (2月26日 22時) (レス) id: f5ec9a9fb0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:早夜 | 作成日時:2023年12月12日 0時