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私から話を切り出していいのだろうか?
「神里様、その…」
「勝負に勝ったのはあなたですから、言い難そうにしないでください。約束通り、なんでも聞きますよ」
私がここから出ていく、と言われるのを覚悟しているのだろうか。
寂しそうな顔をしている。
けど、私が彼に頼むことは違う。
……不安だから。ちゃんと聞いておきたいことがある。
「その前に、少し質問してもいいですか?」
「!えぇ、構いませんよ」
「神里様は…何故私と婚約を続けていたのですか。今回の事が起こらなければ、私は斉藤家の後継ぎのままで私が何処かに嫁ぐということはあり得ませんでした。神里様だって当主ですし。分かっていたはずです、この婚約は叶うことはないと」
この人は考えなしに行動する人じゃない。
それなのに、何故なのか。
ずっと心に引っかかっていた。
神里家に似合うご令嬢など稲妻にごまんといる。
「それは……あなたの事が好きだったからですよ。理由はそれだけです」
「は……?神里様は、家より私の事を選ぶんですか…?」
「うーん、両方ですかね。あなたを娶った後にあの二人を追い出して、斉藤家を建て直すとか考えてたんですけどね。彩葉のせいで、そんな計画無くなりましたが」
笑顔で言うことではない気がするのだが……
「綾華に当主を譲って、私が婿入りするのも悪くはないな、と思ってた時もありましたよ」
「そこまでします……?」
「えぇ。言ってるじゃないですか、あなたの事が好きだと。いぇ、愛してるのです」
真剣な目だった。
思い返して見れば、この人が、 私に好きだとか言う時はいつも真剣な眼差しだった。
嘘偽りのない目。
ぎゅっと、私は自分の服を掴んだ。
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作者名:ふく | 作成日時:2022年10月14日 19時