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「汝に面白い話を持って来たぞ」
午後、八重宮司様が神里家屋敷を訪ねて来た。
ニコニコしながら私を見る。
一応話だけ聞いてみるか。
「聞かせてください」
「あぁ。お主の事を散々妖狐だと馬鹿にしていた杏だが、どうやら…妖狐だったのは彼女の方だったようじゃぞ」
「は?」
理解が追いつかない。
つまり、え?杏は人間じゃなかった?
まぁ、確かに身体が弱くて養女を貰った母が杏をどうやって産んだんだって話になるんだけどさ。
そういうことだったか。
「けど、なんで八重宮司様がその情報を?」
「ん?あの頑固者が妾に聞いて来たんじゃ。「妖狐はどう処罰すればいいのか」と」
おそらく沙羅さんの事なんだろうけど……。
というか、なんで妖狐だってバレたんだ?
今まで一緒に暮らして来たが、一回もそんな様子を見た事がない。
家でなら隙が出来るものだろう。
「何故妖狐だとバレたか気になってるみたいじゃなの」
「!」
「ふふっ。お主は心を許した者の前では気が緩むんじゃな。噂の氷の剣士様とは全くかけ離れて、とっても可愛らしぞ」
私は八重宮司様の大人びた笑みと共に言われた言葉に、恥ずかしさを覚える。
すると、襖が開く。
「彩葉を口説かないでいただけますか、八重宮司様」
「良いではないか。妾が誰を口説こうが、お主には関係の無いことだと思うが。それに、彩葉と妾は相思相愛だからな」
と、言って私の腕にしがみつく。
いゃ、全然相思相愛じゃない。というか、あの話をした時点で、私の好きな人が誰か分かってますよね?
神里様の目が笑っていない。
「彩葉は私のです。例え宮司様でもそれだけは譲れません」
「……」
「いゃ、それよりも杏が妖狐だとバレた理由を教えてくださいよ」
「空気を読め」という目線を向けられるが、このままだと話が脱線していく。
八重宮司様が私から離れる。
一緒に話を聞くつもりなのか、神里様は私の隣に座る
「頑固者の尋問が怖すぎて、尻尾が出てしまったらしいのじゃ」
「はい?」
全く予想外で、びっくりである。
まぁ、杏…脅すとかなりビビるもんな……
「……お主はあの頑固者からも好かれているようじゃな」
「?」
「妾からの話は以上じゃ。さて、当主様が怖いから帰るかの」
私は見送ろうと立ち上がる。
「彩葉。お主の障害となる者はもういない。幸せになるんじゃぞ」
彼女から貰った言葉は、何故か温かい気持ちになった。
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作者名:ふく | 作成日時:2022年10月14日 19時