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綾人は彩葉に謝ろうと思い、斉藤家を訪ねていた。



「綾人様?」

「紫苑。彩葉はいますか?」

「いえ。まだお帰りにはなられてはいません」

「そうですか…」



綾人はそう聞いて、帰ろうとする。

そんな時だった。



「これはこれは神里様。斉藤家になにかご用意ですか?」



微かに不気味な笑みを浮かべて現れたのは、彩葉の祖父である永野勇だった。

後ろには先ほど出会った、杏もいた。



「どうやらお嬢様に用があるみたいです。今、お嬢様は不在ですので……」

「そうかそうか。彩葉なら時期に帰ってくるでしょう。良ければ家に上がってお待ちになってください」



永野の誘いを迂闊に断るのは良くないと思った綾人は、笑みを浮かべて「ではお言葉に甘えて」と言った。

斉藤家の家の門が静かに閉じた。

綾人は客間に通された。



(花の匂い……。桜ですかね)



客間にはお香が焚かれていたのか、微かに桜の匂いが漂っていた。



「匂いが気になりますか?少々強すぎましたかね?」

「いぇ。大丈夫ですよ」

「それは良かった。知り合いが、この季節にピッタリなお香をだしたので買ってみたんですよ」



永野は嬉しそうに、綾人に話しかける。

しかし、当の本人は笑顔を浮かべつつ、かなり警戒していた。



「そういえば、桜雷武闘会の方はいかがでしょうか?」

「彩葉さんのおかげで準備はほぼ終わりました」

「そうですか。私からの提案なのですが、優勝した者は彩葉の婚約者にするというのはいかがでしょうか?」

「はい?」



綾人の笑顔が一瞬で崩れた。

何を言っているのだコイツは、という目で彼を見る。



「神里様だって分かっているはずです。後継ぎ同士が結婚など出来ないと」

「ですが、この婚約は彼女のご両親からの提案です。貴方に決める権利などないのでは?ましては婚約者である当の本人がいないところで決めるのは…些か納得出来ませんね」



永野は一切笑みを崩さなかった。

彼はスッと一枚の紙とペンを綾人の前に置く。


そんな時だった。綾人の手がそのペンへと伸びた。

これは彼の意思ではない。



(体が勝手に……?駄目だ…)



スラスラとその紙に署名をしてしまう。

永野は全て書き終わったのを見て、紙を乱暴に取った。



「はっ!!これで婚約解消だ!」

「貴方ッ……私に何を……!!」

「私からの要件は以上です。それでは」



綾人は止めようとするが、力が出なかった

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作者名:ふく | 作成日時:2022年10月14日 19時

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