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Xmasを翌日に控え、街は澄んだ空気の中、色とりどりの電飾に彩られていた。
この日も最後の一人になるまで自主練を続けた彼女を、人知れず撮影し続けた我々にもはや驚きはない。
毎度謝る彼女に、大丈夫と慣れた様子で答える密着スタッフは気になる質問をぶつけた。
"明日はイブですけど、Xmasのご予定は?"
「試合です。」
"即答笑。その後は?"
「特に無いですよ笑。25日は練習後にチームでパーティするかもって言ってましたけど。」
"誰かと会うのでは?"と勘ぐる我々に気づいているのか否か、全くもって取りつく島はなかった。
翌日、積もりこそしないがいつ雪が降ってもおかしくない程の寒気に包まれたイタリアの朝。
「おはようございます……」
この日の試合会場は遠方の為、体育館への集合時間も早かった。
意外だったのは、いつもより気怠げな挨拶で我々と合流した彼女が、実は朝に弱いという事。
試合に向かう早朝の車内、吐く息もまだ白い。
一段と下がった外気温に、低血圧独特の朝の倦怠感、加えて日々の疲れもあるだろう。
「……」
密着してから一番のテンションの低さを感じた我々は取材を諦め、運転の邪魔にならない程度の会話に興じる。
仲のいいチームメイトや車内でのBGMの話まで、単調な質疑応答の様に本当に他愛もない会話の中で、ふとその瞬間は訪れた。
"バレーしてなかったら今頃何してたと思います?"
「んー居なかったかも。」
"え?"
「え? あ、すいません全然聞いてなかった笑。なんでしたっけ?」
"あ、いや……それ新しく買ったのかな?って思って"
そう誤魔化す様に指を指したのはお手玉の様なフォルムのトナカイ。
この前までは無かった物だ。
「あぁ、これこの前ドイツのXmasミュンヘン市で買ったんです。買ってから、数日しか使えない事に気付いたんですけどね。」
"普通サンタとセットでしょう…サンタどこ行ったんですか笑。……あ、信号青なってます。"
「ごめんなさいー……」
まるで独り言の様に謝りながら発進させた彼女は、気を取り直す様に頭を小さく振った。
その仕草もいつもより幼く見える。
"ちょっと意外です笑"
「冬の朝は……駄目ですね。
毎冬、こたつ買いたくなりますもん。
指も温まるまで時間かかるし、動かないし……指ってどうやって鍛えるんだろ。
ボルダリングとかかなー……」
結局バレーに話が繋がる辺りは彼女らしいと言うべきか。
密着の中で、また一つ彼女を知っていく。
朝の彼女は無防備だ。
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#M(プロフ) - 初めまして。楽しく拝見させていただいてます。是非、2以降のパスワードを教えていただけると嬉しいです。よろしくお願い致します。 (4月29日 19時) (レス) id: f9e2a1b66a (このIDを非表示/違反報告)
リエ(プロフ) - はじめまして。楽しく素敵な作品で一気読みしました。続きが気になるので、よろしければパスワードを教えていただきたいです。 (4月6日 7時) (レス) @page50 id: 3e6db03f03 (このIDを非表示/違反報告)
ろん(プロフ) - 初めまして。とても惹かれる作品で一気読みしてしまいました!!!もし可能でしたら、続きのパスワードを教えていただきたく思います!お待ちしております。 (3月24日 23時) (レス) id: 4ab3d6e2fc (このIDを非表示/違反報告)
あゆみ(プロフ) - 初めまして。とても素敵な作品で楽しく読まていただいております。続きが気になるのでよろしければ、パスワードを教えていただきたいです!よろしくお願いいたします。 (1月14日 13時) (レス) id: 0f292486a4 (このIDを非表示/違反報告)
flover(プロフ) - 初めまして。とても楽しく作品を読ませていただいております。何度か読み返しており、続きが気になりました。もし宜しければ、パスワードをお教えいただけないでしょうか?よろしくお願いいたします。 (1月3日 19時) (レス) id: aeaa3e44b3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:虎鉄 | 作成日時:2019年10月27日 16時