エンドラインの向こう側

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"直観像記憶"
あまり耳馴染みのない言葉だが、簡単に言うと、目に映ったものを映像として記憶する能力だ。

"全部覚えてる？"

「……？ はい。」

"マジか。だから、オフを潰してでも直接観る事にこだわる……？"

「そうですね、直接見た方が忘れないので。それに、スポーツ観戦自体は好きなので別にオフを潰して、とかは思ってないです。」

何でも無いように笑う彼女に、我々は愕然とした。




我々の脳裏を過ぎったのは
つい先程、ドイツに向かう機内での事。
音楽でも聞いて束の間の休息を取っているか、それとももしかすると彼女の寝顔が撮れるのでは？と我々は一つ後ろの彼女の席を振り返った。
彼女は眠ってなどいなかった。
その手には、日本ではお馴染みの

"知恵の輪？"

「ん？やります？」

知恵の輪が握られていた。
結城曰く、空いた時間はパズルや知恵の輪で常に頭を働かせる事で、いついかなる時もベストな判断を下せる様にコンディションを整えているのだという。

彼女は、朝起きて練習に励み
練習が終わった後は自主練、そしてトレーニング。
オフの大半は、何かヒントを得る為にスポーツ観戦に明け暮れる。
全てがバレーボールに直結していた。

彼女は一体いつ休むのか。
どうして、そこまで。







いくら好きだとしても
過酷でない、訳がない。
でも彼女は笑っている。
その事実と、それが出来る精神力に
言葉が出てこない。
だが我々の言いたい事を察したのだろう。

結城は口を開いた。


「無駄に記憶力は良いので、相手選手に対してはずっと見てれば癖とかが分かります。
味方に関しては、いつも見てきたプレーが頭の中にあって……それとすぐに比較出来るからその日の調子が分かります。
元スパイカーなので、どういった時にどういうトスが欲しいか、スパイカーの気持ちもわかる。
コートの中だったら目を見ただけで、
何を思ってどう考えてるかもわかる…つもりです。
だから…調子の悪いスパイカーが居たら自分のトスで道を開けて引き上げてあげたいし、調子の良いスパイカーが居れば、少しでも軽く…高く跳べる様に、背中を押してあげられるようなトスをあげたい。
スパイカーにとって、一番の味方でいたい。
その為には…やっぱり最大限の努力、1×スパイカーの人数分位は努力しなきゃいけないかなって思うんですよね。」

"……逃げたいって思った事は？"

「ありません。セッターが迷ったら終わり。
私は……セッターですから。」

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