エンドラインの向こう側

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遠くからだが
あの柔らかな笑みを見た時
我々は安心にも似た親近感を覚えた気がする。

ー自分の好きなことに没頭する普通の27歳の姿ー(取材当時)

この時初めて
素の彼女を、垣間見た気がした。



"お疲れ様です。"

「……そういえば今日カメラの日でしたよね、ほんとすみません。」

そう言うと汗だくの彼女は、また笑った。

視聴者に情けないと言われようが
"電話の相手が誰だったのか？"
我々にはまだ聞く勇気はない。









密着の日数を重ねる毎に、それなりに距離は縮まったと自負するものの
なかなか彼女のペースは切り崩せない。
流石は、日本女子バレーボール界の司令塔と言うべきか。

"今日はオフ？"

「体育館が点検で使えないので完全オフです。多分今日は体育館行ったら怒られるやつです笑。」

この日も、手慣れた彼女の運転で訪れたのはフィレンツェの中心街から車で40分程にあるアウトレットモールだ。

"ショッピング？"

「はい。家に居てもバレーしたくなるだけだと思ったので、プラっとして食材でも買って帰ろうかなって。
それに、練習着姿の映像はもう撮り飽きたと思うわよ、ってチームメイトや広報の方にも言われてしまったので笑。」

どうやら気を遣わせてしまったらしい。

「映像の材料は沢山あった方が彼等も喜ぶよ、とも言われたんですけどやっぱりそうですか？笑」

"そうして頂けると助かります。じゃあ、途中カフェでエスプレッソ飲む様な画(え)みたいなの貰えますか？笑"

「あーエスプレッソ飲めないんですよね……笑」

ビールも飲めない、
お酒も甘いものしか飲めない、
周りには子供舌だと馬鹿にされる、と
彼女は眉を下げた。








『日本のTV？貴女が取材を受けるなんて珍しいんじゃない？』

『こっちのインタビューでももっと喋ってよー‼』

これにはAも苦笑い。

『Hi,A‼見たわよこの前の試合‼
セットアップは良い感じだけど、ブロックサボってちゃダメよ？』

『そんな細腕でよくあのサーブ打つなぁ。もう少しパワーを付けないとまたスタメン外されるぞ？』

『貴女のプレーはいつ見ても楽しそうね。』

『A選手‼サインしてー‼』

良くも悪くもイタリア人は正直だ。
街を歩けば、それこそ老若男女ありとあらゆるイタリア人から声を掛けられる場面が多い。
流石バレー大国。
その一つ一つに彼女はきちんと答えていく。
渡伊した直後はビクビクしていたとの事だが、流石にもう慣れたらしい。

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