エンドラインの向こう側

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密着初日。
オランダやロシアなど、その身一つだけで世界を渡り歩く彼女の現在の活躍拠点は

「お疲れ様です、すみませんわざわざイタリアまで……」

セリエA要する世界最高峰のバレー大国、イタリアだ。
我々をわざわざ空港まで出迎えてくれた彼女の身長は176cm。
日本人女性の平均からは抜きん出たその身長も、女子バレーの世界では小柄な方だ。
日本では目立つその身長も
バレーの本場イタリアでは、見事に群衆に溶け込んでいた。









「あんまり広くないですけど、どうぞ。」

恐れ多くも、車のハンドルを握ってくれたのは結城だ。
案内された駐車場には、2年前に購入したという愛車が停められていた。

「シートベルトだけしっかり…はい、お願いします笑。じゃ出発します。」






"凄いですね。"

「……ん？」

"外国なのに凄いですね。"

視線は真っ直ぐ前を見据え、その運転は手慣れたものだった。

「基本的なのは日本と変わらないですし、何だかんだ4年目ですしね。」

2015年のシーズン、そして2016年のロシアを挟み、2017年から本格的に拠点をイタリアに置いている彼女の運転に迷いはない。

経緯(いきさつ)は割愛させてもらうが、紆余曲折の末、彼女の現在のポジションはセッターだ。

バレーボールのセッターは
"オーケストラの指揮者"に例えられる事が多い。
攻撃の拠点、チームの要であるセッターはその指先から多彩な攻撃を繰り出す、いわば仕掛け人だ。


これは、あるスポーツ雑誌の特集で組まれたランキングの一部だ。

【考えが読めないプロスポーツ選手】
【私生活が見えないアスリート選手】

サポーターや解説者からも"飄々としている"と評される彼女は、言わずもがなどちらのランキングにも上位に輝いた。
寡黙な瞳が何を考えているかなんて、
世界を相手に戦ったことなどない我々には知る由もない。
だが、我々は思った。

きっと、彼女を奮い立たせる何かが
きっとある。

この半年間の密着で、その強さの秘訣を暴きたい。





「……」

"……"

「画(え)が保たないですよね、すみません笑。」

"あまり喋るのは得意ではない？"

「意外と喋るねって言われる事もあれば、全然喋らないねって言われる事もあるので自分では正直分かんないです。
あ、でも取材とかはあまり得意じゃないのでいつも逃げ回ってます笑。」

"チームメイトにいつも引っ張り出されてますもんね。"



素に迫る映像を撮ろうにも
初日の彼女は、隙がない。

なかなかの強敵だ。

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