さぁ…みんなで…〝コロシアイ〟しましょう？ ―第一章― (ページ19)

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逃げろ　　諏訪部大和ページ19

「あれ……大和、ちゃん？」

一人、「どんな自殺にしようか」だなんて考えながら自殺本を読んでいた時だった。
気配と足音と共に私の頭上に影が出来て思わず相手の気配を探る。

気を尖らせていると、やけに聞き覚えのある声が私の名を呼んだので面を上げるとそこにはひよくんがいて私のことを不思議そうに見ていた。

「ひよくんじゃないか、奇遇だね」

ぱたりと読んでいた自殺本を閉じてひよくんに笑みを浮かべる。
一方ひよくんは目を丸くして、どうしてここにいるのとでも言いたげな表情をしていた。

驚愕の色を判りやすく顔に浮かべている彼に「私がここにいちゃあ悪いかい？」と意地の悪い質問をしてみる。
すると、彼は顔を大きく横に振りながら両手を慌ただしく宙で右、左と泳がせ誤解を解かんとばかりに口をヒナのように動かした。

「べ、別にそういうわけじゃなくてね……！」
「ふふ、判っているよ。ちょっと揶揄っただけさ」

必死の血相で誤解を解こうとしてくる彼が面白くてつい小さく笑みが零れた。
すると彼は「も、もう…！」と腰に手を当てて、心底男とは思えないほどに可愛らしく怒り溜息を吐く。
怒っている姿や溜息を吐いている姿など、彼の容姿や言動と相俟ってさながら女の様であった。

女性よりも女性らしく、そして可愛らしい幼馴染に思わず私の頬が少しだけ緩む。

「で、でも、どうして大和ちゃんがここに……」
「それは私の台詞だよ。どうして君がいるんだい？ここは殺し合いをするところだ。
今すぐにでも君だけでいいから逃げたほうがいい。私はね、幼馴染には生きていて欲しいのだよ」

控えめにどうしてかと聞いてきたひよくんに、思ったことを真剣に彼の目を見て口にしながら立ち上がる。そして彼の元まで歩いて少し、気圧されている彼に「早く逃げろ」と再度警告した。

だが彼は、その場を動かなかった。どうしたのかと思っていると恐々とした様子で口を開く。

「っ…ぼ、僕だって……」

「僕、だって…！大和ちゃんには生きていて欲しい…！
じ、自殺だなんて、今すぐにでもやめてほしい……！」

普段は、自分の意見を言うのが苦手で常にモルモットの如く何かに怯えていて私の後ろをついて歩くような子だったのに、今は違った。

確かにその瞳には怯えなど浮かんでいなくて芯のある瞳だった。
彼はこんな目が出来たんだ、そう思うとと同時にそんな目が出来る彼が少しだけ羨ましく思えた。
いつも、“死”しか映せない私であれば尚更だった。