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ヤンはゆらりと顔を上げると、ピザのかけらのついた指先をぱぱっと払い、しばらく携帯をいじると急にニヤニヤしだした。

「やっぱりな」
「何よ」
「日本では逆に女が男にチョコレートをプレゼントするんじゃないか。ほら」

 ヤンが携帯を印籠みたいにこちらに向けて、中国語のどこかのWebサイトの合ってるんだか間違ってるんだかよく分からない情報を誇らしげに見せてくる。

「知り合いに日本人の傭兵が居るから何となくは聞いてたんだが……お前汚いぞ、隠してたな」
「そっ、それは」
「俺は男、Aは女。ほら、くれよ、チョコレート」

 今度はヤンがにっこりと手を差し出す。しまった、やられた。
 ヤンは会心の一撃が効いている私を見て、コーラをストローで啜りながらほくそ笑んでいる。

「こ、ここはアメリカだから、アメリカ文化にのっとるの!」
「でもお前は日本人だろ、自分のルーツは大事にしろよ」
「ヤンはどうなのよ」
「俺か?俺はアメリカ暮らしが長い中国系ベトナム人」
「うわ、なんかルーツが迷子」
「だろ?だからいいんだよ、バレンタインデーの解釈なんぞ何だって」

 ヤンはいつの間にか私のポテトを堂々とつまんでいる。そして勝ち誇った顔で言った。

「じゃあこの話はこれで終わりだな」
「……ちぇっ。ネックレス貰えるかなってちょっと期待したのに」

 いじけた私はヤンの隣から向かいの自分の席にわざわざ戻り、皿をまた自分の方に引っ張ってきて、抱えるようにしてむしゃむしゃポテトを食べた。

「なんだよ、そんな囲って食わなくたっていいだろ」
「ふーんだ、ヤンになんてもう絶対あげないもん。ポテトもチョコもなんにも」
「うわ、可愛くないぞ」

 可愛くない、と言われてちょっと悲しくなった。だって私は、本当はヤンにずっと恋している。

 でもチョコを渡す勇気も無くて、そもそもここはアメリカだから女からそれをするのは微妙だし、だから突っかかってみたものの、素直になれず、意気地もないから、結局どうにもならなかった。仕事でどれだけ勇猛に戦えても、恋になると臆病になる。

「A、俺は食べ終わったから先にツールんとこに戻る。金は多めに置いてくぞ」

 私がひっそり打ちひしがれていると、コーヒーをさっと飲み干したヤンが、急にドル札を何枚かテーブルに置いてコートを持って立ち上がった。

「え?」
「じゃあな」

 

・→←バレンタイン・ダイナー(ヤン)



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ムスメ3(プロフ) - トール優しすぎるってばよ (2月18日 21時) (レス) id: fcb0ec653e (このIDを非表示/違反報告)
るう(プロフ) - ムスメ3さん» あたたかいコメントありがとうございます!いつもとても励みになっています。また是非遊びに来て下さい(^^) (2月14日 17時) (レス) id: b1708db406 (このIDを非表示/違反報告)
ムスメ3(プロフ) - お返事ありがとうございます!あなたの作品が見れるなら幾らだって待てますとも!! (2月14日 1時) (レス) id: fcb0ec653e (このIDを非表示/違反報告)
るう(プロフ) - ムスメ3さん» こんばんは、ムスメ3さん。いつもありがとうございます!他にバレンタイン話は書いていなくて……遅筆なもので申し訳ないです。お待たせするとは思いますが、ガンナーにもまだ沼っているのでお話を増やす予定です。是非楽しみにお待ち下さいませ! (2月14日 0時) (レス) id: b1708db406 (このIDを非表示/違反報告)
ムスメ3(プロフ) - あ〜まじ最高 、ガンナーのバレンタイン話とかってありますかね?|ω・` ) (2月13日 19時) (レス) @page4 id: fcb0ec653e (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:るう | 作成日時:2024年2月12日 23時

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