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ページ22

「あ、ごめんなさいヤン。今のは無しで」

 俺が黙っていたのが悪いのか、Aが慌てて謝って俯く。謝らせるくらいなら、いっそ笑い飛ばしてやれば良かった。胸がチリチリする。後悔しても意味がないので、俺は代わりにAの顎を持ち上げて唇を重ねた。目を見開くAに構わず、腕の中に閉じ込めて何度か重ね合わせ、名残惜しくも口を離した。自分の唇が、Aのそれと同じ感触になったのを感じる。

「……ん。イチゴの味がするな」
「は、ぁ、何の、つもり」
「子供の頃食べたドロップスの味だ」
「ヤン!」

 少し息が上がったAが、困惑した顔で俺を抗議するように見上げる。俺はにっこりしてAと自分の唇を交互にタップする。

「リップクリーム、俺の唇にお裾分けしてもらったぞ」
「お裾分け?」
「ふむ、なかなかいいもんだな、悪くない」
「……あははっ!やだもうヤン、馬鹿じゃないの」

 俺の腕の中でAがさもおかしそうに声を上げて笑った。やっと本物の笑顔が見れて、ホッとして腕を離す。悲劇はもう荷下ろしだ。

「これからルーティーンに加えてくれよ、俺の唇へのお裾分け」
「い・や。自分でリップ買えば?」
「ふん、ケチだな」
「ケチはヤンの専売特許でしょ」

 軽口を叩きながら持ち場に戻るAは、もう殺しのプロの顔になっていた。俺も他のメンバーも、もちろん同じ穴のムジナだ。でも例え人生が血濡れていても、イチゴの香りを忘れる事はない。そんなぬるい奴等だからこそ、信頼しているのだ。

「気張れよ、俺達の可愛いスナイパー」
「ええ、もちろんよ。一発で仕留めるわ」

 Aは腹這いになって伏射の姿勢を取り、狙撃用の弾薬に軽くキスして装填する。俺は辺りを警戒してサポートしながら、その弾にイチゴの香りが移った様を想像する。何ともリリカルじゃないか。Aが息を吐いてトリガーに指をかけた。イチゴの弾丸がターゲットを撃ち抜くまで、あと僅かだ。

 

end

脱いだら死ぬ病(ヤン)→←リップクリーム / ストロベリー バレット(ヤン)



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るう(プロフ) - 緋月さん» 緋月様、こんにちは。コメントをありがとうございます!とても励みになります!ヤンが大好きで、これからも書いていきますのでこれからもお付き合い頂けたら幸いです。エクスペ4の話題も出て来たので、ますます頑張っていきたいです。 (2022年10月13日 22時) (レス) @page42 id: 18f6845a23 (このIDを非表示/違反報告)
緋月(プロフ) - 初コメ失礼します。文章の書き方といい、話の書き方がとても好きです!ヤンさん大好きです (2022年10月13日 13時) (レス) id: 2ff1628a0d (このIDを非表示/違反報告)
るう(プロフ) - nonさん» non様、早速感想を頂き有難うございます!嬉しいです!エゴイストはヤンの過去を作成したり内容が真面目だったりと楽しめるか不安でしたが、お好みで良かったです。ホットドッグの話はヤンをキザでお茶目に描く事に注力しました!また是非ご訪問下さいませ! (2021年11月16日 1時) (レス) id: c14aa388ad (このIDを非表示/違反報告)
non(プロフ) - るうさん、こんにちは。エゴイストを読ませて頂きました。ヒロインがヤンと共に戦場に立ち、葛藤しながら生きているという設定がすごく好きでした。ホットドッグランチを読んだら、私も食べたくなってしまいました。 (2021年11月15日 18時) (レス) id: 4771644271 (このIDを非表示/違反報告)
るう(プロフ) - nonさん» non様 初めまして、作者のるうと申します。感想をありがとうございます!とても励みになります。と同時に、同志が居たことに歓喜しています!これからもヤン作品を増やしていく予定ですので、またご来訪下さいませ! (2021年11月10日 9時) (レス) id: c14aa388ad (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:るう | 作成日時:2021年11月6日 21時

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