リップクリーム / ストロベリー バレット（ヤン） ページ21
ターゲット狙撃の準備中、Aがおもむろにポケットから小さなケースを取り出した。銀色のフォルムだったからてっきり弾薬かと思ったら、キャップを開けて唇に押し当ててささっと塗っている。
「こんな時に化粧か？」
「えっ？」
Aはびっくりした顔で振り向いて俺を見ると、すぐに大笑いし出した。もちろん俺は腑に落ちない。
「何だよ」
「あのね、ヤン。これは口紅じゃなくてリップクリーム！」
「リップクリーム？」
「お化粧じゃなくて保湿してるのよ」
笑いながらケースをこっちに投げる。キャッチしてキャップを開けてみると、クリーム色の蝋のようなものが詰まっていた。なるほど、確かに色はついていない。でも納得はいかない。
「それ、今やることか？」
「私、唇が乾いてると何となく落ち着かないの。弾、外しちゃうから」
「唇の乾燥一つで天下のスナイパー様が外すのか？」
「ルーティーンが変わるとダメなの。リップを塗るのもルーティーン」
不思議なもんだ。こんなもの一つで仕事が完遂できないなんて。俺がまじまじとクリーム色の物体を眺めていると、からっ風に乗ってふわりと甘い香りがした。ここは北欧の山奥の崖だ。辺りを見回しても思い当たるものはまずない、A以外は。
「A、昼にパンケーキでも食べたか？やたら甘い匂いがする」
「やだ、ヤンってば本当にこういうのに縁がないのね」
Aはスコープの調整の手を止めて、心底呆れた様に言い放つ。そしてこちらに来ると、俺が持っているリップクリームを取り上げてスッと俺の鼻先に持ってきた。途端に甘い香りがまたし始める。
「あぁ！これの香りか」
「ご名答、イチゴの香り付きのリップクリームよ」
「イチゴ！？まるで子供みたいだな」
「……これくらいは子供でいたいわ」
Aが眉を下げてリップクリームをしまいながら小さく笑って呟く。短い言葉に、深い悲しみが詰まっていた。二の句が継げないのは、俺もまたその悲しみを知っていたからだ。多分メンバー全員が、同じ憧憬を手放せずにここまで生きてきた。
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るう(プロフ) - 緋月さん» 緋月様、こんにちは。コメントをありがとうございます！とても励みになります！ヤンが大好きで、これからも書いていきますのでこれからもお付き合い頂けたら幸いです。エクスペ4の話題も出て来たので、ますます頑張っていきたいです。 (2022年10月13日 22時) (
レス) @page42 id: 18f6845a23 (このIDを非表示/違反報告)
緋月(プロフ) - 初コメ失礼します。文章の書き方といい、話の書き方がとても好きです！ヤンさん大好きです (2022年10月13日 13時) (レス) id: 2ff1628a0d (このIDを非表示/違反報告)
るう(プロフ) - nonさん» non様、早速感想を頂き有難うございます！嬉しいです！エゴイストはヤンの過去を作成したり内容が真面目だったりと楽しめるか不安でしたが、お好みで良かったです。ホットドッグの話はヤンをキザでお茶目に描く事に注力しました！また是非ご訪問下さいませ！ (2021年11月16日 1時) (レス) id: c14aa388ad (このIDを非表示/違反報告)
non(プロフ) - るうさん、こんにちは。エゴイストを読ませて頂きました。ヒロインがヤンと共に戦場に立ち、葛藤しながら生きているという設定がすごく好きでした。ホットドッグランチを読んだら、私も食べたくなってしまいました。 (2021年11月15日 18時) (レス) id: 4771644271 (このIDを非表示/違反報告)
るう(プロフ) - nonさん» non様 初めまして、作者のるうと申します。感想をありがとうございます！とても励みになります。と同時に、同志が居たことに歓喜しています！これからもヤン作品を増やしていく予定ですので、またご来訪下さいませ！ (2021年11月10日 9時) (レス) id: c14aa388ad (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：るう | 作成日時：2021年11月6日 21時
