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ヤンは心外だった。欲が無いなんて、一体俺のどこを見て言っているんだろう。俺は菩薩じゃない。今だって一番欲しいものを目の前にして、焦れて堪らない気持ちを何とか押し込めているというのに。内に飼っている獣が、今にも舌舐めずりして飛びかかりそうになっているというのに。人の気も知らないで、まったく呑気なもんだ。
そこまで思いを巡らせ、ヤンは盛大にため息をつくと、テーブルの雑誌を丸めてAの頭を軽くポコンッとたたいた。
「いたたっ!いきなり何するの!?」
「仕返し」
「はぁ?何の仕返し?」
「さぁな、自分で考えろ。
……あのな、A。本当に欲しいものは口には出さないものなんだよ」
「え?何よそれ」
すると、急に真顔になったヤンがAの頬にするりと指を滑らせる。輪郭を確かめる様にゆっくりひと撫ですると、片手で頬を包み込んだ。
「今は分からなくていい」
ヤンはすぐにぱっと手を離し、何事もなかったように銃のメンテナンスに戻る。Aはしばらくポカンとしていたが、触られた頬をそっと辿りながら、初めてヤンの体温を感じたと思った。その感覚を反芻してみて、何か分かりそうな気がして、でもそれ以上は考えるのをやめた。
「ヤン、手伝うね」
「……壊すなよ」
「もう!失礼ね、そこはお礼でしょ」
「はいはい」
だって、軽口を叩きながら妙に俯いて銃をいじるヤンの耳が、真っ赤だったから。
end
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るう(プロフ) - 緋月さん» 緋月様、こんにちは。コメントをありがとうございます!とても励みになります!ヤンが大好きで、これからも書いていきますのでこれからもお付き合い頂けたら幸いです。エクスペ4の話題も出て来たので、ますます頑張っていきたいです。 (2022年10月13日 22時) (レス) @page42 id: 18f6845a23 (このIDを非表示/違反報告)
緋月(プロフ) - 初コメ失礼します。文章の書き方といい、話の書き方がとても好きです!ヤンさん大好きです (2022年10月13日 13時) (レス) id: 2ff1628a0d (このIDを非表示/違反報告)
るう(プロフ) - nonさん» non様、早速感想を頂き有難うございます!嬉しいです!エゴイストはヤンの過去を作成したり内容が真面目だったりと楽しめるか不安でしたが、お好みで良かったです。ホットドッグの話はヤンをキザでお茶目に描く事に注力しました!また是非ご訪問下さいませ! (2021年11月16日 1時) (レス) id: c14aa388ad (このIDを非表示/違反報告)
non(プロフ) - るうさん、こんにちは。エゴイストを読ませて頂きました。ヒロインがヤンと共に戦場に立ち、葛藤しながら生きているという設定がすごく好きでした。ホットドッグランチを読んだら、私も食べたくなってしまいました。 (2021年11月15日 18時) (レス) id: 4771644271 (このIDを非表示/違反報告)
るう(プロフ) - nonさん» non様 初めまして、作者のるうと申します。感想をありがとうございます!とても励みになります。と同時に、同志が居たことに歓喜しています!これからもヤン作品を増やしていく予定ですので、またご来訪下さいませ! (2021年11月10日 9時) (レス) id: c14aa388ad (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:るう | 作成日時:2021年11月6日 21時