【文スト】【文豪ストレイドッグス】短編集【中原中也詰め】其の11

Connect【なっちゃんりんご様リクエスト：senses続編】 ページ43

『本当に、良いの？』

彼女は小首を傾げて中也を見上げた。
安吾に連れて来られたのは、少女と呼ぶより女の子と呼んだ方がしっくりくるような年頃の子どもだった。

そして、この子こそが、今の中也にとってたった一つの希望。

「……中也君、もう一度だけ…」
「構わねェって、云ったよな？」

説明を続けようとする安吾を制して中也は流華の手を握る。
彼女はピクリとも動かない。

もう、触覚さえ喪ってしまったのだ。

聴覚、嗅覚、味覚、視覚、触覚。
人間が他者と関わり、他者を認識する為の五感。

その全てを、病いが流華から奪い去った。

生きているのに何も感じられない。
生の実感も無く、ただ生きている。
其れはなんと孤独で恐ろしい事だろうか。

だから、中也は決めたのだ。
流華の傍に行く事を。

安吾が連れて来た少女は、異能力者だ。
能力名【影送り】。相手の精神を亜空間へと隔離する能力者。

――隔離された者は異能が解けなければ、やがて肉体が滅び、現世には戻れない。

安吾の説明を反芻する中也の唇には笑みが浮かんでいた。
なんて、今の自分たちに似合いの力だろうか、と。

「流華」

名を呼んで、手を握って、口づけて。
全て何も感じない愛しい人よ。
今、逢いに、行く。

病室に蒼白い光が迸った。

――光が収まった室内には安吾と少女、そして生ける屍が二つだけ。

※

――懐かし、匂いがする。

そう感じて流華は大慌てで目を開けた。
知らない部屋。

『……見えてる』

匂いが分かる。
部屋が見える。
試しに自分の頬を抓った。痛い。

「お、起きたか流華」

ずっと聞きたかった声がして、流華はすぐに察した。

『中也、私の為に……？』
「二人だけの世界だ」

ぎゅっと抱き締められて、涙が止まらなかった。
私が大好きな中也は、私為に全部捨てて、こんな事をしてくれた。

『ばかぁ……！』
「うっせェよ。
ほら、食いたがってろ？」

食卓を指さされて思わず笑ってしまう。
其処で、出来立ての卵焼きがほかほか湯気を立てていた。

――――

リクエストを頂きました。
なっちゃんりんご様誠にありがとうございます！
このようなモノでよろしかったでしょうか？
可能であれば感想をお願いいたします。

2018年4月11日ちょこ

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