アメリカーノ【ふらり火様リクエスト:中也に叶わぬ片思いをする夢主】 ページ48
氷が、何処か冷たい音で崩れ落ちた。
その音に、考え事を邪魔されたから。
流華は顔を上げて隣を見る。
洒落た帽子の男が酒を飲んでいた。
いや、違う。飲んでいるというより眺めている。
頬杖を付いて。煙草を咥えて。
特徴的な青い瞳は琥珀の酒の中に誰かを見ていた。
『お兄さん、失恋?』
何気無しに話しかけてみる。
一瞬睨むような視線を投げてから…男は何処か自嘲気味に笑った。
「ンなとこだ」
『そうなんだ』
煙草が、灰皿の中で捻り潰される。
そんな小さな仕草の中に、粗野に振る舞いながら、何処か優雅な男の色香が滲んでいて。
少し、興味を惹かれた。
『厭じゃなかったら、一緒に飲もうよ』
誘う流華に、男は一瞬躊躇ったが、最後は了承した。
『優しいんだね』
「うっせェよ」
何とは無しに。
お互い名乗らないし。
名前も聞かない。詮索しない。
そんな距離感。
酒場の一角で出逢った男女には似合いの、適度な間合い。
自棄酒と決めたからなのか、それとも元々弱いのか。
何杯か強い酒を呷った男はカウンターに倒れ込んだ。
切れ切れの言葉。
恋人がいた事。
自分にとっては聖母(サンタ・マリヤ)のような存在だった事。
その女が自分を裏切って、秘かに情を通わせた相手が親友だった事。
そして二人はもうじきに結婚するのだ、と彼は語った。
「手前ェ…何処か彼奴に似てるな」
力なく笑んだ彼に、胸がぎゅ、と詰まった。
この男は、その不義理な女をまだ愛しているのだ。
なんだか、堪らなくなった。
彼の赤銅の髪に指を差し込んで。
唇を近づけても、何も抵抗されなかった。
それからは、良くある話だ。
場末の宿で、男と女が朝まで。
気付いたのは、流華が先だった。
だから。何も云わずに、そっと、消えた。
――それから、流華は通う酒場を変えた。
だって、そうじゃないか。
名前も素性も知らない男を。
どんなに愛しても甲斐無い女を愛し続ける男を。
好きになったなんて…洒落にもならない。
そして。
もう一つ。最後に飲むカクテルを変えた。
アメリカーノ。
カクテル言葉は〈届かない思い〉。
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ちょこ(プロフ) - メガネコさん» お待たせいたしました!其の十にてアップ完了いたしましたので、ご確認よろしくお願いいたします! (2017年4月30日 21時) (レス) id: 25228574eb (このIDを非表示/違反報告)
ちょこ(プロフ) - 葵さん» お返事遅くなりすいません!ご確認誠にありがとうございます!わわ有難いお言葉感謝です!続編のご希望嬉しいです!4/30-5/2日頃アップにて書かせて頂きます!少々お待ちくださいませ! (2017年4月28日 22時) (レス) id: 25228574eb (このIDを非表示/違反報告)
ちょこ(プロフ) - 777さん» 某コンビニのアレですか!いいですね、羨ましい!作者田舎住まいでまだゲットできてないのです! (2017年4月28日 22時) (レス) id: 25228574eb (このIDを非表示/違反報告)
ちょこ(プロフ) - 777さん» お返事遅くなりすいません!お久しぶりです!リクエスト誠にありがとうございます!精神ごと6歳に戻った中也さんのお話ですね、畏まりました!4/30-5/2日頃アップにて書かせて頂きます!少々お待ちくださいませ! (2017年4月28日 22時) (レス) id: 25228574eb (このIDを非表示/違反報告)
葵 - 続編ありがとうございます!!わああ!!嬉しい!! ちょこさんの中也さんが大好きです!!もしよければまた続編書いて頂けないでしょうか? (2017年4月28日 5時) (レス) id: 71981e8c07 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ちょこ | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/novel/koro0311ko1/
作成日時:2017年2月25日 15時