水仙 ページ11
私は歌う。
場末の酒場の片隅で。
かつて、将来を誓い合った彼を呼ぶように。
私は此処にいます。
此処で貴方を待っています。
――知っている。
屹度、彼は私の知らない誰かと幸せにやっているのだろう。私の事など忘れて。
でも。私には彼しかなかったから。
こんな惨めに歌うしかない。
※
冬から春に変わる頃。
こんな酒場に珍しく、見知らぬ男が飲みに来た。
黒い帽子。
黒い外套。
黒い革靴。
全身黒ずくめの小柄な男。
残り火のような赤銅の髪が、妙な色気でしっくり彼に馴染んでいた。
彼を観客に、また私は歌う。
飼い主に捨てられた哀れな鳥みたいに繰り返し。
※
次の日。
私の楽屋に、一輪の花が届いた。
眩しい位の黄色い水仙。
彼からかと思って、心臓が高鳴って。
慌てて添えられた一筆箋を見て。
ずるずると座り込む。
違った。
彼の字じゃない。知らない香水の匂いがする。
〈良い歌だった〉
たった一言。見知らぬ男からの言葉を、掌でぐしゃりと潰す。
花も捨ててやろうかと思ったけれど、結局楽屋の片隅に飾った。
――あまりにも、綺麗だったから。
※
その日から、水仙の花が一輪、また一輪と増えていった。
謎の男が律儀に送ってくるのだ。
花瓶が一杯になった頃、私はいつも花を手渡す給仕に訊いてみた。
『あの花は、花屋から?』
給仕は違うと答えた。ある男が、私宛にといつも置いていくのだ、と。
だから、私は手紙を書いた。
≪水仙の花言葉をご存知?≫
※
翌日、楽屋に来たのは給仕ではなくて、いつかの黒づくめの男だった。
『貴方が贈り主?』
「あァ」
中原中也と名乗った彼。
私も名乗る。
「流華かァ。良い名だ」
笑うと、何処か可愛らしい男だ、と思った。
『それで、質問の答えは?』
「知ってる」
短い肯定。
差し出された、零れそうな程の水仙の花束。
「流華。
手前ェに忘れられなう男がいる事は察してるが…受け取ってくれ」
黄色の水仙の花言葉。
其れは…愛に応えて。
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ちょこ(プロフ) - メガネコさん» お待たせいたしました!其の十にてアップ完了いたしましたので、ご確認よろしくお願いいたします! (2017年4月30日 21時) (レス) id: 25228574eb (このIDを非表示/違反報告)
ちょこ(プロフ) - 葵さん» お返事遅くなりすいません!ご確認誠にありがとうございます!わわ有難いお言葉感謝です!続編のご希望嬉しいです!4/30-5/2日頃アップにて書かせて頂きます!少々お待ちくださいませ! (2017年4月28日 22時) (レス) id: 25228574eb (このIDを非表示/違反報告)
ちょこ(プロフ) - 777さん» 某コンビニのアレですか!いいですね、羨ましい!作者田舎住まいでまだゲットできてないのです! (2017年4月28日 22時) (レス) id: 25228574eb (このIDを非表示/違反報告)
ちょこ(プロフ) - 777さん» お返事遅くなりすいません!お久しぶりです!リクエスト誠にありがとうございます!精神ごと6歳に戻った中也さんのお話ですね、畏まりました!4/30-5/2日頃アップにて書かせて頂きます!少々お待ちくださいませ! (2017年4月28日 22時) (レス) id: 25228574eb (このIDを非表示/違反報告)
葵 - 続編ありがとうございます!!わああ!!嬉しい!! ちょこさんの中也さんが大好きです!!もしよければまた続編書いて頂けないでしょうか? (2017年4月28日 5時) (レス) id: 71981e8c07 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ちょこ | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/novel/koro0311ko1/
作成日時:2017年2月25日 15時