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水仙 ページ11

私は歌う。
場末の酒場の片隅で。

かつて、将来を誓い合った彼を呼ぶように。

私は此処にいます。
此処で貴方を待っています。

――知っている。
屹度、彼は私の知らない誰かと幸せにやっているのだろう。私の事など忘れて。

でも。私には彼しかなかったから。
こんな惨めに歌うしかない。



冬から春に変わる頃。
こんな酒場に珍しく、見知らぬ男が飲みに来た。

黒い帽子。
黒い外套。
黒い革靴。

全身黒ずくめの小柄な男。
残り火のような赤銅の髪が、妙な色気でしっくり彼に馴染んでいた。

彼を観客に、また私は歌う。
飼い主に捨てられた哀れな鳥みたいに繰り返し。



次の日。
私の楽屋に、一輪の花が届いた。

眩しい位の黄色い水仙。

彼からかと思って、心臓が高鳴って。
慌てて添えられた一筆箋を見て。
ずるずると座り込む。

違った。

彼の字じゃない。知らない香水の匂いがする。

〈良い歌だった〉

たった一言。見知らぬ男からの言葉を、掌でぐしゃりと潰す。

花も捨ててやろうかと思ったけれど、結局楽屋の片隅に飾った。
――あまりにも、綺麗だったから。



その日から、水仙の花が一輪、また一輪と増えていった。
謎の男が律儀に送ってくるのだ。

花瓶が一杯になった頃、私はいつも花を手渡す給仕に訊いてみた。

『あの花は、花屋から?』

給仕は違うと答えた。ある男が、私宛にといつも置いていくのだ、と。
だから、私は手紙を書いた。

≪水仙の花言葉をご存知?≫



翌日、楽屋に来たのは給仕ではなくて、いつかの黒づくめの男だった。

『貴方が贈り主?』
「あァ」

中原中也と名乗った彼。
私も名乗る。

「流華かァ。良い名だ」

笑うと、何処か可愛らしい男だ、と思った。

『それで、質問の答えは?』
「知ってる」

短い肯定。
差し出された、零れそうな程の水仙の花束。

「流華。
手前ェに忘れられなう男がいる事は察してるが…受け取ってくれ」

黄色の水仙の花言葉。
其れは…愛に応えて。

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設定タグ:文スト , 文豪ストレイドッグス , 中原中也   
作品ジャンル:アニメ
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ちょこ(プロフ) - メガネコさん» お待たせいたしました!其の十にてアップ完了いたしましたので、ご確認よろしくお願いいたします! (2017年4月30日 21時) (レス) id: 25228574eb (このIDを非表示/違反報告)
ちょこ(プロフ) - 葵さん» お返事遅くなりすいません!ご確認誠にありがとうございます!わわ有難いお言葉感謝です!続編のご希望嬉しいです!4/30-5/2日頃アップにて書かせて頂きます!少々お待ちくださいませ! (2017年4月28日 22時) (レス) id: 25228574eb (このIDを非表示/違反報告)
ちょこ(プロフ) - 777さん» 某コンビニのアレですか!いいですね、羨ましい!作者田舎住まいでまだゲットできてないのです! (2017年4月28日 22時) (レス) id: 25228574eb (このIDを非表示/違反報告)
ちょこ(プロフ) - 777さん» お返事遅くなりすいません!お久しぶりです!リクエスト誠にありがとうございます!精神ごと6歳に戻った中也さんのお話ですね、畏まりました!4/30-5/2日頃アップにて書かせて頂きます!少々お待ちくださいませ! (2017年4月28日 22時) (レス) id: 25228574eb (このIDを非表示/違反報告)
- 続編ありがとうございます!!わああ!!嬉しい!! ちょこさんの中也さんが大好きです!!もしよければまた続編書いて頂けないでしょうか? (2017年4月28日 5時) (レス) id: 71981e8c07 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:ちょこ | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/novel/koro0311ko1/  
作成日時:2017年2月25日 15時

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