【文スト】【文豪ストレイドッグス】短編集【中原中也詰め】其の1

寂しかったを、埋める【麗様リクエスト：股ドン】 ページ43

『は、ぅ…』

漏れた湿った息。
しまった、と口を押える流華。
其れを肉食獣の眼で見降ろす中也。

ことの発端は痴話喧嘩。
結婚して三ヶ月。俗に云う新婚家庭。
だが一緒に暮らしたのは僅か一週間。

中也は哀しいかな、首領に仕える幹部の身だ。
出張、と一言云われれば餌を投げられた犬よろしく、尻尾を振ってみせなければいけない。
愛妻が泣こうが喚こうが拗ねようが、其れは変わらない。

かくして新妻はほぼ三ヶ月の留守番を仰せつかった。

―――そして、本日。

出張から帰った中也と流華は派手に喧嘩したわけだ。

『中也の莫迦！阿呆！仕事中毒！！ちび！！帽子の付属品！』

後半言いがかりのようなセリフに仕事疲れの溜まった中也もさすがに頭にきた。

「手前ェ！」

言い返そうとした瞬間、その辺にあったクッションやらティッシュ箱が投げつけられる。

もう我慢ならない。

妻の小さな暴行を異能で叩き落としてずかずか近づくと、彼女は『ひ！』と喉を鳴らした。

じりじりと迫る中也。
わたわたと退却する流華。

しかし。室内ではそれは、壁によって終焉を迎える。

「もう逃げ場ねェな？」

顔の左横の壁が若干陥没した。それを流華は目だけで確認して恐る恐る夫を見上げる。

「なァ、流華」

あ、此れはまずい。直感した彼女は手を置かれていない右側への逃避を試みる。
が、しかし。

脚の間に差し込まれた中也の筋肉質な脚に阻まれる。

「寂しかったなら素直に云やァ可愛げもあるってのに」

す、と。妻の脚を辿るように、中也の脚が上へと滑る。

「先刻俺がチビとか云いやがったが…手前ェのが小せェだろ？なァ」

その通りなのだ。だから、このまま脚を上げられると…つま先立ちでも変えられない結末。
太腿を辿っていた男の脚が、限界で止まる。黒いズボンの膝に濡れた染みが、できた。

「云えよ」
『ん、寂しかった…』

耳に吹き込まれた毒のように甘い言葉。
嗚呼もう逃げ場はない。

降ってくる唇に、脳髄まで煮溶かされる。夜は、まだまだこれからだ。

――――

リクエストを頂きました。
麗様誠にありがとうございます！
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2016年7月11日ちょこ

真夏の太陽【アリス様リクエスト：海などでナンパされる夢主様を救う中也】→←世話焼系男子と脱力系女子-後編-

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