ラムネ色の ページ28
からん、と涼しげな音に小さく笑う。
任務終わりに喉が渇いたと喚く部下に買い与えた炭酸飲料。
その半透明な瓶の中でビー玉が転がっては、小さく音を立てる。
「美味いか?」
『ん?』
ラムネの瓶に口を付けたまま、隣の女は目をぱちくりして、それから―笑った。
彼女はマフィアで生まれ、マフィアしか知らずに育ち、自然にマフィアになった。
そんな生い立ちのせいなのか、妙に浮世離れしているのが欠点。
彼女――流華の関心は常に≪戦う≫ことと、≪生きること≫。
戦う場所があるなら他はいらない。生きていられるなら、別に栄養摂取は点滴で構わない。
だから、中也が買い与えるものに、いつも不思議そうな顔をする。
最初にやったのは、確か櫛だった。
「手前ェも年頃だろ」と小言付きでやった安物。それを此奴は、陽に透かし、眺め、挙句机に飾った。まさかと思って問うと、いまいち使い方が分からないという返答。
中也がその場で取り押さえて髪を梳くと――笑った。
その後も気になって、服、髪飾り、靴、菓子と贈ってみた。
やはり大抵の物は最初、如何したら良いか分からないというような眼をする。
その度に世話を焼いていたら、なんだか情が湧いた。
そのうち、中也が問う前に流華が自分から使い方を聞いてくるようになって。だんだんと欲しいものを云うようになって。買い与えると礼も云うようになった。
父性に似たその庇護欲が、段々と形を変えて、気づけば立派な恋情。
今隣でからからとビー玉を揺する彼女は、逢魔が時の橙も相まって、この世ならざるもののように美しい。
「…欲しい」
思わず、唇から零れた本音に慌てて口を噤む中也。
だが遅かった。流華は不思議そうにこちらを見上げてくる。
沈黙の隙間に、からんとまたラムネ瓶が鳴いた。
二人の視線が、ラムネに集まる。
ずい、と彼女から渡される瓶。
良い口実とそれに口を付ける中也。
『関節的な、接吻』
ふいに笑顔の流華が投下した爆弾に、噎せる中也。
『直接、欲しい』
一段深い笑み。薄闇でも分かる赤い頬。
ああ、なんて甘ったるい―――ラムネ色の、口づけ。
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ひよこリュナ(プロフ) - ちょこさん» hohohoほんとですか!!!ありがとうございます!!Bダッシュで見に行きます!! (2016年7月17日 10時) (レス) id: eef97769f4 (このIDを非表示/違反報告)
ちょこ(プロフ) - ひよこリュナさん» リクエストありがとうございます!読んでいただけて嬉しいです!!先刻続編にアップさせて頂きましたのでご確認よろしくお願いいたします!! (2016年7月17日 10時) (レス) id: be59381d22 (このIDを非表示/違反報告)
ひよこリュナ(プロフ) - 叶わないの続きを見てみたいです!!ハッピー方面で!! (2016年7月16日 23時) (レス) id: eef97769f4 (このIDを非表示/違反報告)
ちょこ(プロフ) - アリスさん» リクエストありがとうございます!先刻アップさせていただきましたのでご確認ください !! ( (2016年7月11日 21時) (レス) id: be59381d22 (このIDを非表示/違反報告)
ちょこ(プロフ) - 麗さん» 御覧頂きありがとうございます!これからも書かせて頂きますので、またのリクエストお待ちしております! (2016年7月11日 17時) (レス) id: be59381d22 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ちょこ | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/novel/koro0311ko1/
作成日時:2016年6月14日 21時