MISCHIEF/志麻 ページ10
*。
街灯りに邪魔されて、相手の顔を照らす明かりは街灯だけ。
そして、今日は10月31日のハロウィン。
10月の風は結構寒くて、大丈夫だろうと油断した薄めのコートが恨めしい。
そんなことを考えながら、目の前の男を見た。
「ずっと、好きで。付き合って、くれへん？」
恐る恐る、という風に言う彼は社内でも人気な名前も知らないイケメンさん。色気のある彼だけれど、告白は小学生みたいに純粋だった。
冷たい夜風が彼の短い髪を揺らした。見え隠れするホクロが妙に色っぽい。
「ハロウィンに告白なんて、意外とロマンチストなんですね」
告白を無視してそう言うと「そういうの嫌い？」と聞いてきた。
嫌いじゃない。けど、早く帰りたい。辺りはすっかり暗くなっていて、相手の顔も見えない。そろそろ終電の時間が迫っている。それに、寒くて仕方がない。
「嫌いじゃないですよ。けど、告白はお断りします」
チクリ、と胸が痛む。
告白は答えがイエスならお互いハッピーだけど、ノーならお互いイヤな気持ちになる。
告白は嫌いだ。するのも、されるのも。
断ったときの相手の顔が頭から離れなくて、その日は罪悪感に苛まれてぐっすり眠れないから。
「……理由、聞いてもええかな」
「…恋愛に、興味がないからですね。そんなのより楽しいことなんて、この世界では山のようにあるのに」
「変わった考えやな。嫌いやないで、そーいうの。それに、ちょっと分かる気ぃするわ」
「そりゃどうも」と彼の言葉の意味も考えず適当にあしらい、駅へ急ごうとすると名も知らぬ彼は私の腕を掴んだ。
近くなった彼の瞳は光の一切を遮断していて、目につくのは渦巻く欲望の赤。
「せっかくのハロウィンやねんから、言わせてぇや」
「……何を？」
「Trick yet Treat」
少しの瞬きの瞬間に近づいたのか、唇と唇がくっつきそうな距離に彼の端正な顔があった。
紅い唇は、オモチャを前にした子どもみたいに歪んでいて、覗いた歯は鋭利に尖っていた。
早く、早くとでもいうように彼の力は徐々に増していく。
「お菓子はええから、悪戯させて」
意味を理解する前に溢れた解答は、脳に届く前に遮断された。
彼の肌がゆっくりと、しかし確かに色を変えていく。
「お菓子は悪戯しながら、食べたいから」
掴まれた腕が、みしりと音を立てた。
霞む視界の中で、赤い、赤い満月が見えた気がした。
-fin-
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