＊ ページ13
「あの。ゾンビさん」
「志麻って言うねん。俺」
「志麻さん。お菓子。あげますよ」
「お前？」
なんで私がお菓子なんだよ、と思いながらもお菓子の入った籠に手を突っ込む。もっといい人に今年はあげたかったけど仕方ない。来年のハロウィンも楽しむためだ、と自分に言い聞かせる。
「はい、これ」
「ただのクッキーやんけ」
「まあまあ」
志麻さんは苦そうな顔をしながらも「まあ、食べ物の言うこと１個くらい聞いたる」とクッキーを口に放り込んだ。
「なにこれ、甘っ！」
「砂糖の配分を間違えたクッキーでぇす」
「お前っ！」
ギロリと睨まれたが全然気にしない。クッキーの噛む音が聞こえてきてまだかな、まだかなと待つ。もう少しで『私の魔法』にかかるはずなんだ！
「…なんか、お前。可愛いな」
「は？」
「いや急に可愛くなってきたわ」
「食べられてもいいようにするために褒めてるんですね」
「ちゃうわ！」
志麻さんは私を見つめて「…好き」と呟いた。
「好きとか…バカにしてますか！」
「ちゃうってば！ほんまのことやって」
「え…」
「一目惚れってやつ？」
「いや一目惚れの早さ！」
顔は多分歪んでいるけれど内心ガッツポーズ。
「食べるのもったいないな。また来年にお預けや。来年、ここで会おな」
志麻さんはヒラヒラと手を振りながら人混みの中に紛れて見えなくなった。
「来年も来ますよ。お前にかかった『私の魔法』が解けるまで」
私の正体がバレなくて良かった。同じ怪物同士だから…匂いでバレそうになるとは思いもしなかったし、まず怪物がこの街にいるなんて。
私は魔界の怪物。『小悪魔』
毎年ハロウィンになると仮装と紛れて獲物をあの魔法の甘いクッキーでオトす。1日だけしか効かないけどオトすことが楽しいし、目にハートが浮かぶところが面白いの。ゲス？そんなことない。
志麻さんにクッキーを使ったのは痛恨だったけれどまあ、いいや。数年かけてアイツをオトしてやろう。面白そうだし。
私の人の部分ってやつを全て忘れさせて1日だけ私を『悪魔』にさせてくれるこのハロウィンの魔法。
「trick or treat 」
さぁ、来年もその魔法、私にかけて？
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