第82話 優しい思い出だからこそ ページ47
休みが明ける。
結局あの後俺は気持ちが沈んでしまい、記憶探しを続行しようと進めてくれた先輩から逃げる様に帰宅してしまった。
…思い返せば…母さんも、水樹も、桜も、杏も…皆、俺の昔の事は一切口を開こうとしないし。
水樹に至っては、中学卒業…いや、高校入学したての頃までは俺の記憶探しに付き合ってくれたのに…
俺、本当にどうしたら…
「よし、日向ボール行ったぞ…おい、日向!?あれ!?」
「日向君、前、前!!」
「え?」
楓君が何を言っているのか理解する前に、俺の顔面に衝撃的な何かがぶつかり…
そのまま仰向けに倒れた。
あ、そういえば今…体育の授業でサッカーしてるんだった。
皆が何かを叫んでいるっぽいけど、俺はそのまま意識を手放したのであった…
「…お前、大丈夫?」
「…何とか。」
軽く2時間程気を失っていた俺。
目覚めた時には昼休みは終了していた。
パイプ椅子に座る水樹が俺の顔をじっと見ている。
「周りにいた奴らほぼ全員パニック起こしてたぞ。あの日向がボールを避けれずに倒れた、日向が死んじゃう助けてって。」
「うっそー…やばい。」
「竹貫が一番パニックを起こしていたけどな。」
「何故。」
「さぁ、竹貫と俺らって似てるからね。無意識にアイツ俺らの事弟か息子って思い込んでるのかもな(適当)」
確かに何となく似ているけどさ、俺達って。
「昨晩だって、悶々と考えてあんま寝てないだろ。普段はぐっすり眠るくせにさ。
……暫く寝た方が良い。」
「あぁ、うん…でも結構寝たし大丈夫。」
「だけど…」
「眠って授業終わりましたってなんか嫌だからさー。」
「…無理すんなよ。」
「うん。」
もそもそと俺はベッドから降りようとして…
気になっていた事を水樹に聞いた。
「水樹。」
「ん?」
「…俺の記憶が戻れば…家族の間で隠し事ってなくなるよね?」
「…さぁな。」
…水樹が目を逸らす。
水樹は相変わらずぶっきらぼうだ。
「俺の記憶がないのって、余程辛い事があって…忘れたいから…思い出したくないからなのかな。」
何て、どうして俺はこんなに弱気になっているんだろう。
水樹に聞いたって、分かる訳ないのに。
「…良い思い出を作り過ぎたから、逆に忘れたいのかもな。」
「…どういう事?」
「さぁな。それより行くぞ。日向元気になったって伝えなきゃだし。」
「あ、待って!!」
思い出を作り過ぎたから、忘れたい?
忘れたいから、思い出せない…?
2人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:tsurara | 作成日時:2017年3月5日 20時