第430話 愚かな俺の罪の記憶 １１ ページ5
それから少しして、とうとうそれは夢にも出て来た。
俺のせいで紅葉が死んだあの日の夢。
紅葉が血濡れで俺を睨んでいる。
梓さんも血濡れで憎々し気に見ている。
柾さんは「お前が僕の宝物を奪ったんだ」と突き飛ばし
楓は、「お前なんか大嫌いだ」と俺を見下ろした。
お父さんから「お前なんか俺の息子じゃない」と言われて
お母さんから「こんな子に育てた覚えはない」と言われて
杏からは「近寄らないで」と冷めた目で見られて
桜からは「人殺し」と何度も責められて
水樹からは「お前みたいな奴が双子だなんて、気持ち悪い」と叩かれた。
その責め続ける声が、ずっと止まなくて
胸が痛くて
悲しくて
そして……俺は自己暗示した。
全部忘れよう。
こんな辛い思いをして何も考えられなくなるなら
もう、俺に記憶はいらない。
そして、俺はそれまでの記憶を全部捨ててしまった。
紅葉という忘れてはいけない親友の存在も
勉強がそこまで好きじゃなかった俺に、楓が教えてくれたひらがなも、簡単な漢字も、算数も
空木の人達と出会えた楽しい想い出も
お父さんとお母さんの親の優しい温もりも
水樹と桜と杏が教えてくれた、姉弟で支え合う大切さも
皆が教えてくれた、何気ない日常の幸福感というものも
何もかも、全部―――――
その後の空っぽの俺は、どうしようもなくイライラした。
何も分からない、出来ない、動けない、俺の顔や姿が分からない…そんなストレスで家族やモノに当たる様になった。
だけど、俺にそっくりな水樹を見て、俺は落ち着きを取り戻した。
いつも落ち着いているソイツを見て、何となく俺も冷静になれた気がしたから。
だって、俺達は2人で1人。
俺がしっかりしないと、水樹に何かあった時何も出来ない。
…水樹といれば何となく「1人の完璧な人間」になれた様な気がして、大半の事は落ち着ける様になった。
いつしか、償いから始まった自分に出来る事を習得する日々に追われ、昔の事よりも目の前や先の方ばかりを見る様になってしまった。
そして…
俺は自分が「記憶を無理矢理消した」「記憶喪失である」という自覚すらないまま年月を過ごす様になり…
忘れてはいけない記憶を忘れたという自覚がないまま、7歳までの記憶を失くしたまま………栗栖野日向という人間は形成されてしまった。
全てが大きく変わったのは、楓君と柊君に再会した時からだろう…
否……全て元に戻された…というべきだろうか……
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作者名：tsurara | 作成日時：2018年8月8日 21時
