第429話 愚かな俺の罪の記憶 １０ ページ4
あの日、あの家にいたのは刹那さんが俺の現状を見て、家に帰す訳にはいかないと思ったからだろう。
現に。柊君に会えた嬉しさは、この時はどうしても感じられなかった。
柊君はまだ知らない。
紅葉と梓さんが殺された事を
何も知らないまま、今も虐待に耐えている。
柊君がこの事を知ったら、今よりももっと泣くだろう。
刹那さんの姿は見えなかった。それどころか柊君のお母さんもいなかった。
出掛けているのだろうか…
とはいえ、傷だらけの小さな子供を放置するのは親としてあり得なさ過ぎるけど…
俺の傍には、ヨーグルトとパンが置いてあった。
誰が用意してくれたのかは分からないけれど…
何も食べたくない…申し訳ないけど、今は手を付けたくない…
あの声は、もう聞こえなかった。
眠っている柊君の…痛みに耐える様な呻き声を聞く限り、悪夢を見ているのかもしれない。
けど、俺はそんな彼に何も出来ない。力が沸かない。
俺は、本当に何も出来ない子だ…
もうすぐ俺は柊君に悲しい思いをさせてしまうんだ…
本当に、ごめんなさい…
帰宅したのはその翌日
お母さんが涙を流して俺を抱きしめるも、何を言っているのか分からない。
ただ、俺はひたすら紅葉の事を考えていた。
忘れたくても、忘れられない。
俺の大好きな紅葉がいなくなった事もそうだし、刹那さんがどうして紅葉と梓さんを殺したのか分からない。
あの日を思い返す度に、俺は紅葉に謝り続けた。
(日向が憎い。日向は軽率で馬鹿な奴で、今まで楽しい事しかしてこなかった)
子供の声
紅葉の声なのかどうかは分からないけど、ずっと俺を責め続けるあの声が、止まなかった。
(でも、そんな世界にずっといたツケが、親友の死だなんて…罰当たりだね)
紅葉に謝っても、泣いても、その声は止まなかった。
次第に俺は…被害妄想というのだろうか。
楓も俺を憎んでいると思い込む様になってしまった。
そして事件の真相を知らない家族でさえも、俺は恐怖心を抱く様になった。
きっと俺を軽蔑している、俺のせいで親友を死なせた俺を…
(何で日向はいつもそうなの？どうして肝心な時に何も出来ないの？)
その子供の声は、ずっと俺を責め続けた。
部屋に籠る様になってからも、寝る時も、何かをする時も
けど、しつこいと思えば思う程
『俺は、自分の罪を責める声をしつこいと思う様な最低な人間』と思い知らされ、その子供の声からは逃れられなかった。
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作者名：tsurara | 作成日時：2018年8月8日 21時
