第446話 それぞれの望み １ ページ21
「もしかしたら、お父さんと葵さんが研究を続けたのは、その「最大の手段」を使わなくても病気を治す薬を開発する為だったんだろうね……」
楓の言葉に、俺は少しだけ胸を痛めた。
「……そう、だな。だけど、親父はそれを金儲けの道具にしようとした。それを察した柾さんが全部燃やした……
こんな危険な花の研究を進めるだけでなく、親父みたいな悪人に利用される可能性を防ぐ為でもあったんだな…」
…生きるにしても死ぬにしても、どのみち一度は死ななければならないから…
…水樹が、少しだけ辛そうな顔をしている。
どうしたんだ？
「…俺、ね…お父さんが桜の苦しんでいる姿を見たくないから、刺したんだと…今までそう思ってたんだ。……あの毒は、病気を消しているついでに深傷を消しているのだと思っていたけど……
むしろ、逆だったんだな……病気は、オマケで治った…って訳か……」
水樹は、倒れている桜に近付く。
……そうだ。
今の所、唯一桜だけが、感染していない状態で死亡している。
……死亡している人間に、今から感染させても間に合うのだろうか……？
水樹は、桜を抱きかかえる。
「……お前ら、ちょっと後ろ向いてて」
言われた通り、俺達は背を向ける。
水樹は…今から、桜に感染させるんだ……
そりゃ、そうだよな……
世の理を覆してでも……
生きて欲しいものは、生きて欲しいんだから……
少し、長く感じた俺達は……目を見合せて水樹達の方に顔を向ける。
「――――!!」
水樹と桜は、口づけをしていた。
そこから、血が流れていた。
夥しい量の、血液だった。
「―――ゴホッ……！」
そして、一気にそれはお互いの口元を赤で汚した。
水樹は、桜に覆い被さる様に倒れた。
「水樹君!?」
「水樹！おい、水樹……！」
まさか……!?
「……違……熱く、な………ぃ……」
「…え？」
「むし、ろ……寒………」
水樹の腹から、コポリ……と血液が桜の服と床を濡らした。
……日向に刺された時に出来た傷…
それを長い間我慢していたのか…？
どんだけ耐えてたんだよ……
水樹の顔から、血の気が失せる。
「水樹……」
「水樹、君……」
楓の目から大粒の涙が零れている。
生き返るという保証があったとしても、誰かが死ぬのは見たくない。
俺だって、見たくない……
……見たく、ねぇよ……
「……か……ぇで……ひ……ら、ぎ…………まで……ご…………め………」
水樹は、そこで事切れた。
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作者名：tsurara | 作成日時：2018年8月8日 21時
