第438話 あの子の望みは ３ ページ13
君に会えたら……何て、それは叶わない。
俺は生きてるけど、俺がいる世界に君はいない。
だけど……
君は、確かにちゃんといたという事を、今ならはっきり断言出来る。
取り戻した記憶の中の君は、紛れもなく生きていた。
笑っていて、泣いていて、たまに楓君と喧嘩して不貞腐れて…
……俺は、ずっと紅葉の亡骸ばかりを思い出していて
恨まれて当然だと思い込んでいて
本当の紅葉がどんな奴なのか、思い出す事も考える事もロクにしなくて……
俺は……確かに、恨まれても仕方ない事をした。
だけど……
「……俺、は……
もう一度、紅葉に……会いたい……っ…」
俺は立っていられなくなり、その場にしゃがみ込む。
「…うん」
水樹が俺の背中を優しく擦る。
「会って……謝りたい、あの時……助けられなくてごめんって……っ…それで……それで……！」
楓君が頭を撫でる。
「それで…何かな？」
柊君が大粒の涙を零して俺を見る。
「それで…………
あんな……弱ってた、のに…俺を、た、助けに、来てくれて………
―――俺の事、守って…くれて………ありがとうって、伝えたい……っ…よ……！」
あの時は、ただただ君の死がとても悲しくて痛かった。
繋がりが消え、声も姿も見えなくなって、紅葉だけが時が止まった事に罪悪感を覚え…
そうじゃない。
そんなのは、きっと紅葉は望んでいない。
紅葉が一番嫌なのは……きっと、誰かが自分の前からいなくなってしまう事
生きて欲しい人の命が消えてしまう事
俺が罪悪感を抱いても、俺がどんなに泣いても、俺達の前に紅葉は戻って来ない。
それに悲観しても、記憶を失っても、それは逃げ道に過ぎない。
紅葉があの時…何の為に体を張って俺を守ってくれたのか…
少しだけ大人になって、漸く気付いた。
―――ただ、生きて欲しいから。その為なら、自分の身を顧みないんだ……
俺が出来る事は、死んで詫びる事じゃない。
誰かに殺される事でも、罰を受ける事でもない。
全ての事を、また無かった事にするんじゃない。
俺に出来る事は………ただ、生きる事だ。
どんなに底辺でも、どんなに辛くても……それでも、生きるんだ。
今度は1人じゃない。
皆がいる。
皆が、俺に生きて欲しいと望んでいる。
俺が引き金を引いた事を知っても尚、優しい手で俺を支えてくれる人達がいる。
ちゃんと前を向こう。
だから
今だけ、俺達は泣いた。
……沢山、泣いた。
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作者名：tsurara | 作成日時：2018年8月8日 21時
